『世界の全て』




 心の中にはいつも『青』があった。
 深く広い、どこまでも続く『青』。
 この海を辿れば、いつかたどり着く『オールブルー』。

 でも、俺の中には『青』だけしかなかった・・・



 知っているか?ゾロ。
 俺が死に場所と決めていたバラティエを出てきた本当の理由。

 青白い闇が一瞬で紅い鮮血に染まった。
 『青』以外の色を、あの時初めて知ったんだ。
 まるで、その瞬間に生れ落ちたかのように・・・
 あの日お前に出会わなければ、俺はここに存在しなかった。

 熱帯ジャングルのむせ返る程の『緑』も。
 暴力的に視界を奪い、全てを無に還す雪の『白』も。
 乾いた大地を照らす灼熱の太陽の『赤』も。
 過去の栄華を彷彿させる雄大な『黄金』も。
 すべて、お前が俺に気づかせた色なんだぜ?

 お前がいるから、世界が意味を持つ。
 オールブルー・・・だけじゃなくて・・・・・・










 扉を閉めれば、互いの顔すらわからないくらいの闇が広がる格納庫。
 埃と火薬の臭いがたちこめるこの場所に、毛布を2枚用意しただけの簡単な寝床。
 1枚は下に、1枚は上に掛ける。
 2枚の毛布に挟まれたこの空間だけが、俺達の逢瀬が赦されるところ。
 口下手で態度にも現せられない俺だけど、この時間は大切に思っているのに、 どうやらこいつは、それがよくわかっていないらしい。
 事が終わった後や、酷い時にはヤッてる最中にも遠い目をしてる。

 (あれは遠い目じゃねぇのか・・・どっちかって言うと、自分の奥深くに意識がいって何も映してないって感じの眼だな・・・)
 両手を床に縫い付けて、眼下の白いうなじに顔を埋め、冷めない熱と荒い呼吸を整えながらゾロは思う。

 (まったく、脳みそ足りねぇくせにゴチャゴチャ余計な事考えてっから・・・しょうがねぇな・・・)
 サンジの額に散った髪を指ですくい、薄く開いた目元にゾロはそっと口付けを落とす。


 すると、フッとサンジの瞳に意識が浮上した。
 「なぁなぁ、ゾロ。お前、俺が死んだらどうするよ?」





 「・・・・・・はぁ?」
 (唐突に何を言い出すんだこのアホは)
 ポカンと口を空けたまま、ゾロはサンジを見下ろす。
 「ほら、何とか言ったらどうなんだ?言語中枢がイカレタのか?クソマリモ・・・ん?ん?」
 薄く筋肉の付いた細い腕をゾロの首に回し、首を傾げるサンジの姿は、口汚さに反して壮絶に可愛い。
 「何、突然おかしなこと言ってんだ・・・」
 「お前は黙って俺の質問に答えやがれ!」


 ゴスッ。


 物凄い勢いで頭突きが来た。
 何で、身体を重ねた直後の甘い余韻が残っているベッドで(実際には毛布をひいただけだが) 頭突きなんぞされなきゃならんのか。
 ゾロは心外でたまらない。
 ブスっとした表情で、眉間にシワを寄せる。
 「じゃ、俺が死んだらお前はどーすんだよ?人に聞いといて答えられないなんてことねぇよな?」
 「俺か?・・・そうだな、お前は先にコロッと死んじまいそうだからな・・・その可能性の方が高いか・・・」
 傾げていた首を、今度は逆に傾けてサンジはちょっと考える仕草をする。
 そんな簡単に殺されても困るのだが・・・とゾロは思うのだが・・・


 「そうだな、てめぇが俺よりも先に死んだら・・・その身体を切り刻んで、喰ってやる。」
 薄く開いた口元から、チロリと紅い舌が閃く。
 「まずは喉をかっ切て血を抜いて・・・次に喉から下腹部まで一直線に切り裂いて臓器を取り出して ・・・間接ごとに切断して・・・骨と肉を分断して・・・・・・てめぇの肉は筋肉ばっかで食いにくそうだから、 筋を切断して叩いて柔らかくして煮込むか・・・包丁で細かく細かく切り刻んでミンチにしても良いよな。 骨はダシを取って・・・残った部分も捨てないぜ?・・・乾燥させて、砕いて粉末状にして飲むさ。 そうやって、毎日少しずつ、少しずつ食っていくんだ・・・俺は海の一流コックだからな、 細胞の一欠けらも残らず料理してやるよ・・・・・・」
 目元が薄っすら赤くなり、頬も段々と紅潮していく・・・恍惚とした夢見るような表情で歌うように話す。
 「お前は俺の血と肉になるんだ」
 フワリ・・・とサンジは微笑む。
 楽しそうに、嬉しそうに・・・まるで愛を囁くのと同じ口調で・・・・・・


 「で?お前は?俺が死んだらどうすんだ?」
 「・・・お前が死んだら・・・・・・なんて考えたくもねぇ」
 「却下。・・・考えたくなくても・・・お前が、どんなに強い力で願ったとしても・・・ もしかしたら、死んじまう日が来るかもしんないだろ?・・・例えば、明日突然死んだらどうする?」
 真っ直ぐにゾロを見つめるサンジの瞳に何が映っているのか、ゾロにはわからない。
 深く息を吸ってため息をつくと、ポツリポツリとゾロも言葉を紡ぐ。


 「もしも・・・お前が、明日死んだら・・・・・・まず、今のお前のまま保存できる方法をあの女に聞く・・・」
 「ロビンちゃんのことをあの女とか言うんじゃねぇよ」
 サンジがゾロのピアスを引張るとゾロは、今そこは関係ねぇだろ、と不機嫌にサンジの指を払う。
 「・・・それから、ウソップに必要な機材を揃えてもらって・・・チョッパーにはその状態を維持できるように管理してもらう。 死んだ・・・とかじゃなくて、まるでただ寝てるみてぇな感じに・・・・・・ そうだな、髪はナミにでも梳いてもらうか?・・・で、ルフィにはそれを・・・海賊が来ても海王類に遭遇しても、 お前がその状態で船にいても大丈夫なように護ってもらうさ・・・・・・」
 「お前は何もしないのかよ?」
 サンジは唇を尖らせて不満げに聞く。
 「俺は・・・まず世界一の大剣豪になる」
 「何?その姿を俺に見せてくれるって?」
 「いや、違う・・・これはまず、やんなきゃいけねぇ事なだけだ・・・・・・ そしたら、次はオールブルーを探す・・・・・・」
 フゥと息をついて・・・ゾロはサンジの瞳を見つめた。

 「オールブルーが見つかったら・・・お前と・・・俺の身体を鎖で繋いで、海の底に沈める・・・・・・ 俺は、野望が叶えばそれで良いから・・・後はお前に付き合ってやるよ。 ・・・光の届かない海の底まで・・・身体が腐食して・・・俺かお前かわからなくなって・・・ 細胞が溶け合ってひとつになるまで・・・・・・ずっと一緒だ」





 「そっか・・・へへ・・・そんな風に考えてるのか・・・・・・」
 サンジはクスクス笑いながら毛布にもぐると、チュッとゾロの心臓の上にキスをした。
 ゾロも毛布を頭まで被ると胸元のサンジを抱き寄せる。
 「まったく・・・これで満足か?」
 「おう」
 胸元に顔を埋めたサンジの笑顔はゾロには見えなかったけれど・・・・・・







 なんて言うんだろう・・・単に「愛してる」と言われるよりもずっと深い事を聞いたような気がする・・・・・・
 俺の時間が止まる時が来ても、世界が終わるわけじゃない。
 お前が俺の世界の全てだから、この世の全てを手に入れて海に溶けるんだ・・・










 それはきっと幸せな瞬間。

 End

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時間軸がよくわからない短編ですみません(汗)
でも、レン的にはラブラブな2人です(笑)
ちょーっとだけ暗いかな?って感じですがこれも『愛』
ってことで許して下さいv

久しぶりの更新なのに・・・連載の方も忘れてる
わけでわないので(汗)

年末年始は頑張ります!
                                2003.12.22   美影 レン


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