『絶対零度』
紅い闇に溶ける白金の獣の夢を見た。
深いまどろみから徐々に意識だけが覚醒していく。
指はおろかまぶたさえ自分の思うように動かせず、薄く開いた視線の先には何も映らない。
深い闇に囚われている・・・・・・
冷気を帯びた大気は肌を刺し、肺から漏れる息は凍えた空に白く広がる。
なのに、背中だけが熱い・・・
(あぁ・・・そうか。見張り前に酒でもと思ってキッチンに向かったら、
明かりが付いてたから船尾に来て、そのまま寝ちまったんだっけ)
眼下に広がる海は闇を映し、ここには月の光すら届かない。
背後に聞こえる音に、ゾロは気配を殺す。
背中が熱い。
濃密な気配が漂う、それはまるで血溜りに沈む白蛇のような・・・
こぼれる吐息は切なげに震え、微かな物音すら熱を帯びている。
キッチンの主・・・サンジが何をしているのか・・・見なくてもわかる。
断続的に聴こえてくる悩ましげな声は脳に直接響いて、脊髄を通って下肢まで熱が広がる。
気づかず握り締めていた手のひらには赤く爪の跡が付いていた。
(こんなのは・・・反則だろ・・・)
普段からは想像もできないような甘い声と吐息に眩暈がする。
理性が根こそぎ持って行かれそうでゾロは唇を噛み締めた。
例えばこのまま、正面へと回り、キッチンへの扉を開いたらどうなるだろう。
羞恥に頬を染めるのか。怒りに震えるのか・・・
いや、違う。
そこにはきっと絶望が映るだろう。
誇り高いこの男の心の闇を垣間見る。
絶望が見たい。
(誰も見たことがない・・・俺だけの・・・)
キィィン
ゾロの欲望に共鳴して鬼徹が鳴いた。
持ち主と嗜好が同じなのだろう、サンジを欲する鬼徹にゾロは口の端を少しだけ上げて苦い笑みを漏らす。
でも、もし夜のサンジを無理やり手に入れてしまったら、昼のサンジは・・・、綺麗な顔からは想像もできない口の悪さだとか、
生意気そうな顔だとか、不敵な笑みだとか、人の顔を見ては猫のように突っかかってケンカをしてみたり・・・
そういったものはきっと失われてしまうのだろう。
サンジをめちゃくちゃにしたい欲望と同じ強さで、今ある仲間としての自分のポジションや信頼を失いたくないとも思う。
壁に立てかけていた鬼徹を手に取り刀身を抜き出すと、刀身の根元を右手で軽く握り、そのまま剣先までゆっくりと手を引いた。
ツツ・・・と、真の闇でも白く輝く刃全体に薄く深紅の血液が広がっていく。
(今はまだ・・・俺の血で我慢しな)
遥か遠い野望だけを胸に生きてきた。
愛だとか恋だとか、そんな想いは知らない。
追いかけて、追い詰めて、手に入れたい。
それは・・・
夢すら霞むほどの強い欲望。
背後の気配が一際強くなり
絶頂の瞬間に何か聞こえた・・・
でも、それには気づかないふりをする。
凍えた空は透明すぎて、本当の想いが見えない。
絶対零度の真実まで、あともう少し・・・・・・
でも今はまだこのままで・・・
End
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2004年一発目なのに暗いです・・・
しかも短いし・・・(爆)
一応『赦されない恋でいい』のゾロバージョンです。
サンジ視点も暗かったですがゾロも暗いですね(遠い目)
多分この2人がハッピーエンドになる話もおいおい
書いていくと思います。
短編なのに続いてる?って感じですが(汗)
2004.01.17 美影 レン
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