『恋する惑星』

とぽとぽとぽとぽ・・・・・・
お湯がポットに注ぎ込まれると、ゆっくり甘い香りがキッチンに漂いだす。
綺麗にキツネ色に焼けたスコーンをオーブンから取り出し、白くて丸いお皿に1つづつ丁寧に
並べていく。
そこにヴァニラとミントの葉を添えて出来上がりだ。

お盆にスコーンと淹れたての紅茶を乗せて、まず向かうはパラソルの下で海図を眺める麗しの
ナミさんの元。
「ナ〜ミさぁ〜〜〜〜〜〜ん。
 優しい日差しと柔らかな潮風が香る甲板で、甘い午後のひと時はいかがですか?
 おやつです」
「あら、可愛いスコーンね。紅茶もとても美味しそう。ありがとうサンジくん。」
「いやいや、ナミさんの為ならば1日何度でもお作りしますよぉ〜」
「それは遠慮するわ。だって流石に太ったら困るもの」
スタイルを気にするそんなナミさんも素敵だぁ〜と、タバコからハートの煙を飛ばしている
サンジにナミは、肩を竦めて笑ってみせた。

突然、わぁ!という歓声が船首であがる。
何かと思い目を向けると、羊の上で騒ぐ船長と、その脇でこれまた同様に騒ぐ長ッパナが見えた。

「そういやクソゴムがおやつの時間に騒がないなんて珍しいですね?」
サンジはちょこっと首をかしげて疑問を口にした。
「ふふ・・・お昼過ぎくらいからかしら?船の横にずっとイルカの群れがいるんですって。
 どうやらルフィと気が合うみたい。飽きもせずに眺めているの」

「おい!ナミ!こいつらすげぇぞ!!!おめぇもこっち来ててみろよ!!!」
話題の本人がクルリと振り返りナミを呼ぶ。

ふ〜ん珍しいこともあるもんだ。仕方がねぇから奴らの分も持っていってやるか。
一枚の更に山盛りになったスコーンを取りに、サンジは一度キッチンへ戻る。
そしてナミも食べかけのスコーンと紅茶を持って立ち上がった。

ザッツパーン!
サンジがキッチンのドアをくぐり、正面に目を向けると、一際強い波の音と共に、
船首のメリーよりも高く飛び上がったイルカが見えた。

「な!な!すんげぇだろ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
こぼれんばかり笑顔で喜ぶルフィ。
メリーの上で飛んだり跳ねたり、落ちそうになるのもおかまいなしにはしゃいでいる。

「本当にルフィってば・・・太陽みたいに微笑むの・・・
 まいっちゃう。暗い闇も振り払う強烈な日の光って感じかしら?」
歩きながら、ほんの一瞬眩しそうにナミは目を細める。
「強力な太陽の光に引き寄せられて、みんなルフィを中心に回るのよ」
「じゃぁお前は金星だな。ナミ」
おやつを受け取りにきたウソップが、スコーンに手を伸ばしながら言う。
「いつも金、金言ってるから・・・ガッ」
「レディに失礼な事言ってんじゃねぇ!」
サンジが振り上げた足がウソップの顔面にヒットする。
「それを言うなら、金星・・・それは明けの明星。朝日と共に光り輝く、変わらない指針、
 永遠の俺の女神・・・ナミさん・・・グ!」
抱きつこうとするサンジに、今度はナミのパンチが見舞われた。
「それなら。サンジくんは月かしら?闇色のスーツに金の髪。  夜を纏った満月にぴったりだわ」
「だったら俺は?」
ウソップが聞く。

「そんなの決まってるじゃない。火星よ!火星!」
「そんなの決まってるだろ。火星だよ!火星!」
ナミとサンジの声が重なった。

『必殺ウソップ火薬星!』

高らかな声が甲板に響き渡る。

「おれはそんなんかよ〜」
ウソップは情けない声を出した。

「まぁ・・・あれだ。火星は軍神だからな。戦う男の象徴だ。勇敢な海の男になるんだろ?
 ぴったりじゃねぇか」
サンジが肩をパンパン叩く。

「でもよ〜軍神って言うならゾロじゃねぇ?」
「いや・・・奴はただの魔獣だから。違うだろ。」
ウソップの言葉を速攻でサンジは否定する。

「う〜ん・・・そうだな?地球って感じか?髪と肌の色が、青々と生い茂る草と、
 大地って感じじゃねぇ? エネルギッシュなとことか、殺してもしなねぇ生命力とか
 ・・・獣くさいとことかよ。」
ふーん・・・なるほど。
そう言われてみればそうかもなぁなんて、ウソップは単純に関心しているが、スコーンを
食べながらサンジの言葉を黙って聞いていたナミはニヤリと笑った。

「あ〜ら、サンジくん。ゾロが地球だったら・・・サンジくんはゾロの周りを回っちゃう
 わよ〜」
「なっ・・・なんで、おれがあんなクソ野郎の・・・俺の中心はいつでも貴女です!
 ナミさん!!」
「駄目よ。月は地球を回るものですもの。照れなくったって良いのよぉ〜?」
「ナミさぁ〜ん。。。」
サンジはガックリと肩を落として残念がるが、うつむき、髪で隠れた耳と頬は、 
ほんのりとピンク色に色付いている。

(あれで隠してるつもりなのかしら?ほんとサンジくんて可愛いわよね)

(いつもそこで微妙に否定しきれてないんだよ・・・サンジ。
 ナミ相手じゃ俺は援護できねぇ、なんとか自力で逃げてくれ)

(あぁ・・・ナミさんに言われちまうなんて、もう駄目だ。
 クソ!そうだ全部あの野郎がワリィ。
 あいつが緑なのが悪いんだ!!!)

三人三様の思いに、一瞬その場が沈黙する。



「あ!お前らずりいぞ!俺もおやつ〜〜〜〜〜〜!!!」
イルカに没頭していたルフィがスコーンの香りに気づき、ミヨ〜ンと腕を伸ばして
皿ごとスコーンを奪っていく。
「やめろ〜ルフィ!一人で全部食うな〜」
固まっていたウソップが慌てて皿を追いかける。
それに合わせて、サンジも動く。
クルリと振り返るとカツカツと靴を鳴らしとキッチンへ戻って行った。





テーブルの皿の上には、一つだけ取り分けられたスコーンが残っていた。
ただ一つだけ、他のものよりも甘さ控えめにできている。
ゾロは甘いのもが得意じゃなくて・・・
わざわざ別に作ることもないのだけれど、やっぱりクルー全員に美味しく食べて
もらいたいと思ってしまう。
なのに、折角出しても食べてもらえないこともある。
いつのまにかクソゴムに食われていることが多いせいだ。
今日は山のようなおやつを先に渡してある。
イルカにも夢中だからきっと船尾までは来ないだろう。

キッチンの裏、船尾の甲板で、ゾロは両足を投げ出し豪快に昼寝をしている。
普通に歩いて近づいても起きないのはわかっているので、ちょっと大きめの足音を
させてみた。

無駄だった・・・

軽くため息をついて、ゾロの腹の上に足を乗せる。
このまま蹴りを落とせば流石に起きるだろうけど・・・

サンジは乗せた右足をグリグリを動かしてみた。
力を入れて踏むと、靴の上からでも、鍛えられ鋼のような腹筋がわかる。
なんとなく、その感触が面白くて、しばらくウリウリと踏み続けていた。
甲板を渡る風がゾロのまつげと髪を揺らす。
サラサラと動くそれは、草原のようだ。
一番最初の記憶からずっと、サンジは海の上で生きてきた。
上陸するのは買出しくらいで、街に出るだけだ。
だから・・・

(大地を踏みしめるって・・・きっとこんな感じなんだろうな・・・)

と、サンジは思う。

なんとなく起こすのが勿体無くて、そのままゾロの横に膝を立てて座り込んだ。

(でも、時間経つと味落ちるからなぁ・・・)

スコーンをつまみ、ゾロの鼻先に持っていく。
すると、パカとゾロの口が開いた。
試しに端を口に突っ込むとモグモグと食べ始める。

(お・・・おもしれぇ、寝たまま食ってる)

普段なら、寝ながら物を食べるなんてもっての他だ。
でも、甘いのもを敬遠するゾロが進んでおやつを食べてくれてるみたいで、少しだけ
嬉しい気がする。

落ちないように手を添えていると、ゾロはモクモクと口を動かし続け、
一分もしないうちに食べきってしまった。

「いつも・・・こんくれぇ素直なら良いのによ・・・」

ポロポロとゾロの口の周りに付いているスコーンの欠片を指で拭うと、 
サンジはゾロの上に屈み込みポツリとつぶやく。

ゾロの上の日の光が遮られて・・・



ちゅ。



と、一つキスが落とされた。










サンジはお盆に皿を載せると、立ち上がり、ゾロに背を向け太陽を仰ぐ。

「地球は太陽の周りを回ってるけどよぉ、夜くれぇは月だけのものになっても
 良んじゃねぇの?
・・・なぁ?ゾロ」

歩きながら小さくつぶやくサンジの声を、柔らかな潮風がゾロの元まで運んでいった。





薄目を開けて、一度だけサンジが消えた方へとゾロは目を向ける。

「素直じゃねぇのはお互い様だろ」

ゾロはクワと大きなあくびをすると、ペロリと自分の唇をなめて、目を閉じた。



End

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サン誕3本目のお話ですv

書き終って気づいたんですけど・・・微妙?
ハッ!これでもゾロサンですよ!
わかりにくくてすみませんm(_ _)m

隠しきれてない恋心と素直じゃない2人でしたv

そして、ルフィに勝てないと思ってる、ちょっと弱気なサンジ。
きっとね、お互い自分ばっか相手の事が好きだと思ってるんですよ(笑)

もちろんこのお話もDLFです。
お気に召しましたら御自由にお持ち帰り下さいv

それでは、また!
サン誕期間終了までまだまだ書きます!
てか、HARUコミの原稿は!・・・ブルブル
ちょびっと現実逃避してしまいました・・・ひぃ〜(汗)

そしてここまでお読み下さって、ありがとうございました。


最近、増々サンジへの愛が募っていって困っています・・・
ふとした瞬間にサンジのことが頭に浮かんで、キュンとなるんですよ!
もう末期かも・・・(苦笑)


                         2004.03.09  キメラ.A / 美影 レン




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