『血の誓い』

毛足の長い赤い絨毯。
光が反射するゴージャスなシャンデリア。
ザワザワと音が反響するその空間に一人の青年が登場すると、辺りは水を打った様に静まりかえる。
そこにいる全ての人間の視線がただ一人に注がれている。
しなやかな足取りで会場の中央まで行き、青年の手にしたグラスに琥珀色の液体が注がれると、
ぞれを合図に、皆一斉にグラスを高々と掲げた。



『若。お誕生日おめでとうございます。』



テーブルに散乱する大量の酒と料理が、宴の跡を伺わせる。
歓談に耽る者、夢中で食事をする者、酒を楽しむ者・・・様々だ。
ざっと見渡した限りでは有に100を超える人数がこの会場にはいるだろう。
豪胆な笑い声と祝いの言葉のシャワーがあふれ出している賑やかな宴。
それにもかかわらず、そこに参列する者のいでたちは一様に黒いスーツという、一種の異様な
雰囲気を醸し出していた。

そんな中でただ一人。
白を纏った人物がいた。
白いスーツに、白い靴。
胸には白いバラのコサージュが挿してある。
細身の身体にしなやかな身のこなし。
動くたびにサラリと揺れる髪は、シャンデリアからこぼれる光を受け乱反射する、眩しい程の金髪で。
彼こそが、バラティエ組の後継者、そして本日の宴の主役である『サンジ』だった。
そしてサンジの傍らには、スリムなサンジとは対照的なシルエット、スーツの上からでも鋼のような
筋肉を纏っているだろうことが分る男が、影のように寄り添っている。
他の者と同じく全身を黒で覆っているが、唯一、若草色の髪がそれを裏切っていた。
予め対に作られた光と影のように、2人は常に傍に存在しているのだ。

今日、3月2日はサンジ19歳の誕生日である。
初代ゼフが立ち上げたバラティエ組は、ほんの数年でこの地域全域に縄張りを広げ、瞬く間に
他の追従を許さない程の組織へと成り上がった。
一度はトップを退き、先代(2代目)に跡を譲ったゼフだったが、サンジが幼少の頃、大規模な
抗争が起こり、先代を亡くしてしまった為、再び組を仕切る立場についている。
サンジが襲名披露をするのは二十歳の誕生日・・・それまでは、あと1年ある。
それが、サンジが自由にすることを許された時間だった。


「は〜、疲れた。野郎ばっかのパーティなんてクソつまんねぇよ!」
乱暴にスーツのボタン外し、少しだけネクタイを緩めると倒れこむようにサンジは自室の
ソファーへと身を沈める。
「ホント、何で毎年毎年、野郎に囲まれてお誕生日会だなんて・・・やってられっかクソッタレ!」
サンジが横になっても足が伸ばせるくらいの黒い皮のソファーは某高級家具屋のイタリアの工場
まで行ってゾロが買い付けてきたものだ。
「どうせなら素敵なレディに囲まれたいぜ!」
うつぶせになってジタバタと暴れ出す。
いくら作りが良いと言っても、サンジの脚力で蹴られ続けては流石の高級ソファーも痛みが激しい。
「会場スタッフにすらレディがいないなんて!!!」
ギュウギュウと抱きつくクッションもソファーとセットで1個数万はする代物だ、それすらポーンと
部屋の隅に投げ捨てられてしまう。
だらしがない格好で文句を垂れる姿は、組の跡取りとしての威厳も風格も無い、せいぜい三下が
良いところだ。
サンジの台詞にゾロは、眉間に皺を寄せてため息をつく。
「組長を始め、組の者は皆、貴方の誕生日を祝いたいんです。察してあげて下さい・・・若」

バシッ!

その言葉に、サンジは脱ぎかけていたジャケットを、至近距離からゾロの顔面へと叩きつけた。
胸に挿していたバラはゾロの頬を掠め、棘が赤い線をつけて、ポトリと床に落ちる。
「『若』じゃねぇだろ!?2人きりんときは名前で呼べって何回言えば分るんだ!
お前は脳みそまでマリモなのか!このアホ!」
サンジは荒れた呼吸を整え、身体を起こし、ソファーに深く座り直してゾロを睨む。
ゾロは頬を伝う血を拭いもせず、黙ってサンジを見ていた。

「ゾロ・・・靴、脱がせろ」
ゆったりと組んでいた長い足を、少しだけ浮かせてゾロへと差し出す。
ゾロは無言のままサンジの前に跪き、静かに靴に指を掛けた。

ヒュッ・・・ガツ!

その瞬間、空気を裂く音と床に何かがぶつかる音がした。
床に額を押し付けられているゾロ。
その頭にはサンジの足が乗っていた。
チクチクと靴の下に広がる緑はまるで芝生のようだ。
ぞのままサンジはグリグリとゾロの後頭部を踏みつける。



「舐めろよ・・・足」



その言葉に、ゾロはサンジの足の下から抜け出し靴を脱がす。

そして、素足になったつま先に口付けた。

「違う!・・・もっとちゃんとだ!」

足の指先に舌を這わせ、1本1本丁寧に舐めあげる。
足首、ふくらはぎ、膝の内側に・・・紅いを散らしていく。

乱れる息のままに2人の身体はソファーへ沈み、サンジはゾロの頭をギュッと抱え込んだ。




「てめぇは俺もんだろ?・・・ゾロ」


















ゾロの父親はサンジの父親・・・先代の右腕だった。
母親同士も懇意にしていたため、ゾロとサンジは生まれる前から一緒だったと言っても
過言ではない。
親友の様に、兄弟の様に、でも血よりも濃い絆で結ばれて育ってきた。
負けず嫌いでな2人は、喧嘩を良くし、同じだけ傷だらけになって遊んだりもした。
幼い頃は2人一緒であれば誰にも負ける気はしなかったし、どこまでも飛んでいけると純粋に
信じていた。

だが、そんな2人の関係を一変させる出来事が起こったのだ。



10年前の桜が美しく彩られる時期の頃だ。
今は近代的な造りで最新のセキュリティが完備されているこの屋敷も、当時はまだ古く、
日本の良き情緒を残した日本家屋だった。

花見を名目にサンジ邸では深夜まで宴が開かれ、ゾロもこの日はサンジの部屋に泊まっていた。
サンジの部屋は屋敷の奥に位置し、面する中庭には見事な桜が1本だけ植わっていた。
あの日、満月の下で後から後から降りしきる桜の花びらは、なぜだかゾロには散り急いで
いるように見えた。

並べた布団に横になり、2人きり・・・たわいもない話をする。
明日の体育の授業は剣道だとか。
剣道だけは勝ったことがねぇんだ、と少しすねるサンジをなだめてみたり。
そういや宿題やってねぇよ、明日写させろとか。
帰りは道場に寄るんだろ?俺もついていくからな〜と笑うサンジの頭をクシャクシャとなでてみたり。
ポツリ、ポツリと会話わ途切れ、2組あるのに1つの布団にうずくまり、子犬のように寄り添って、
2人はいつしか夢の中の住人になっていた。



静寂が闇を包んでいく・・・・・・





ドォン!!!

爆破音で目が覚める。

全ては唐突で一瞬のできごとだった。

銃声。
断末魔の叫び声。
大勢の人間の動き回る音。

咄嗟にサンジを腕にかばい周囲の様子を探る。
すると複数の足音と共に声が聞こえてきた。
「おいガキはどこだ」
「ゼフの血筋は残さねぇ」
「頭の所望だ」
「探せっ!!!」


このままでは、サンジがヤバイ。
なんとか逃がさねぇと。
ゾロが思考錯誤しているうちに、腕の中にいたサンジがするりと抜け出した。
「庭から逃げよう!ゾロ!」

と、同時にパンと襖開き、男達が乱入してきた。

「そっちは駄目だ!サンジ!!!」

中庭に逃げようとしたサンジが障子を開け放つと、月明かりを受けてサンジがキラキラと浮かび上がる。

(あれじゃ標的にされる!)

銀色の光が、視界の隅で閃いた気がした。

(間にあわねぇ!)

考えるよりも先に身体が動く。
一瞬がこんなにも長く感じたは初めてだった。
両腕を広げ銀色の閃光の前に立ちはだかる。

ザシュッ!

鮮血の紅が人事のように鮮やかに目に映った。
灼熱の炎で神経を焼かれたような熱が、左肩から右脇まで斜めに走る。

「ゾロォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

サンジの悲鳴はやけに遠く聞こえた。

『あぁ・・・サンジ。』

『お前はちゃんと逃げれたのか。』

『重い、カラダ・・・動かねぇ。』

『こんなんじゃ駄目だ。』

『最後まで護りきらねぇと。』

『安全なとこまでサンジを逃がしてやらねぇと。』

倒れてる・・・場合じゃ・・・ねぇ・・・だ・・・ろ』



俺は緩やかに暗い闇に意識を落としていった。





最初に意識が戻ったのは、あれから一週間後だった。
病院の白い天井に一瞬天国かと思ったが、全身の激痛にそうではないことを知る。
両腕はやけに重かった。
よく見てみると、固定された左腕には点滴が挿してあり、右手はサンジが握り締めて眠っていた。
両手で包み込むようにてを握り、椅子に座ったままベッドに突っ伏している。
(そうか、サンジは無事だったのか・・・良かった)
どうしても頭を撫でてやりたくて、左手を無理に動かしたら、ブチと点滴がはずれ、勢い余った
点滴はそのままガシャンと派手な音をたてて倒れていった。

大きな音にガバッとサンジが身体を起こす。

「あ・・・ゾ・・・ロ・・・・・・」

ゾロの記憶にあるサンジよりもずっと痩せてしまい、今まで見た事がないような表情をしているサンジ。
潤んでいた目から、ブワと一気に涙が溢れ出す。

「うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「ゾロ・・・ゾロ・・・・・・」
「俺・・・てめぇまで・・・死んじまうかと・・・思って・・・・・・・・・」

ゾロに抱きつき、叫び・・・泣き続けるサンジ。
その震える身体を抱きとめ、ゾロはサンジの頭を・・・背をなで続けた。

「大丈夫だ・・・俺はそう簡単に死んだりしねぇ」

ゾロの言葉に、ビクリとサンジは肩を揺らす。

「そんな事言ってるから、死にかけたりするんだ!俺を庇うなんて、10年早いんだよ!クソッタレ!!!」
罵声とは裏腹にサンジはゾロの腕の中で震え続ける。

抱きしめる腕に力を入れ、ゾロはサンジの耳元で静かに囁いた。

「・・・俺は、簡単に死んだりはしねぇ。約束だ。杯なんか交わさなくても俺の命はてめぇのもんだ。
他の奴に奪われたりなんかしねぇ。俺は・・・てめぇのもんだ・・・サンジ」

「その言葉、違えんじゃねぇぞ!コロッと死にやがったら、あの世の果てまで追いかけて
殺してやるから覚えとけ!!!」



この時から、対等ではない・・・互いを縛る約束が結ばれたのだ。





この日、ゾロの両親はサンジの両親を護る為に死んだ。

そしてサンジの両親はサンジとゾロを護る為に死んだ。

だからゾロは、ずっとサンジを護り続けるのだと思っている。

約束は違えること無く・・・・・・・・・




















「あ・・・ん・・・くっ・・・」

黒いソファーの上で、白と褐色の肌が絡み合う。

わざと挑発して乱暴に扱われるよう仕向ける。
声も漏らさないように我慢するのだけど。
いつも最後の方にはゾロの名前を呼んでいる。
本当は・・・とてもとても好きなのに素直になれない自分。
ゾロの腹にに手を当て、斜めに走った傷をなぞる。

俺達を縛る証。

残された時間は、あと一年。
主従とかじゃなくて。
この男の心が欲しい。
何もなかった頃には戻れないけれど。
ただ守られるんじゃなく、守るわけでもない。
安心して背中を預けてもらえるように。
もっと強くなる。
いつまでも共に・・・走り続ける為に。





(だからゾロ、てめぇはもう逃がさねぇぜ?)



 End


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サン誕4本目のお話ですv

実は一番最初に書き始めていたんですが・・・
なんだか途中途中で萌え〜な事があり、「先に他書いちゃお〜」
とか言ってたら出来上がりは4番目になってしまいました(汗)

そして、やっと!初めて誕生日ネタでした(笑)

あまり極道チックではありませんでしたが、
『ゾロの身体の傷はサンジのもの〜』
なシチュエーションに憧れていたので、今回頑張って書いて見ましたv
更に、もう一つお初があったのです!
子ゾロと子サンジv
小さい2人が、一生懸命抱きしめ合ってるのって、微笑ましくありません?v

極道ゾロサンは、機会があればサイトでまた書いてみたいです。
もし、続き読みたい!って思った方がいましたらメール下さい(笑)
きっと喜んで続き書いちゃうと思います(笑)

懲りずにこのお話もDLFです。
お気に召しましたら御自由にお持ち帰り下さいv
それでは、また!
サン誕期間ももうすぐ折り返し地点ですが、終了までまだまだ書きます!
頑張りますので!またいらして下さい!!!

ここまでお読み下さって、ありがとうございました。


HARUコミの締め切りに・・・震えが止まりません(爆)
だ、だ、だ、きっと大丈夫なはず(爆)



                         2004.03.13  キメラ.A / 美影 レン




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