サンジが、俺の元を後にしてからどれくらい経っただろう。



振り払われた手のひらの温もりは覚えているのに、気紛れに優しくすると目を伏せ嬉しそうにはにかんだ、 サンジの笑顔はどうしても思い出せなかった。



覚えているのは悲しみに歪んだ泣き顔ばかりだ。



優しくしてやれば良かったのだろうか。

胸に迫る暗い激情をひたすら押し込め、他の奴に触れられるくらいならいっそこの手で息の根を 止めてしまいたいと願う程の狂気を隠し続けて・・・



今更そんな事を考えても、どうしようもないけれど。







ドン。



「テメェどこに目ぇつけてんだ?あぁ?」



無意識のうちに徘徊していたのだろう、辺りを見やるとそこはサンジと狩場にしていた、 ネオンと雑踏にまみれた繁華街だった。

そして見るからに堅気でない人間とぶつかった。

徒党を組まなければ喧嘩も売れないようなクズが。

くだらねぇ。

無視を決め込むと強く肩を掴まれる。



「おぅおぅ。テメェからぶつかっておいて無視はねぇんじゃねぇの。

スーツが汚れちまったじゃねえか。どうオトシマエつけてくれるよ?あぁん?」



汚れが気になる程上等な仕立でもない服をヒラヒラさせ、チンピラはまくし立てる。



(…うぜぇ)



ドスッ



と、男の腹にコブシを沈めると、糸が切れたアヤツリ人形のようにグニャリとくずおれた。

そのまま人気のない路地裏に引き込むと、気が済むまで殴り続けた。







「俺の機嫌が悪い時にからんできたテメェが悪い」



「その辺で勘弁してもらえないかな」



場にそぐわない涼やかな声に降り返ると、今足元で動かなくなっているゴミとは 明らかに格の違う鋭い目の男が立っていた。



「こんなのでも私の部下でね。」



部下と言ったわりには倒れた男にはそれ以上触れることなく話を続ける。



「巷で噂の女装少年の相棒と見受けるがいかがかな。ここいらはうちが仕切っているシマでね、 君達が狩った人間も店に金を落としていく大事なオキャクサマなんだよ。」



「それがどうした」



「そう威嚇しないでくれたまえ。何も、仕事を辞めて欲しいと言うわけじゃない。

ただひとさまの土地で商売をするには借地代が必要だろう?それが世の中の道理というものだ。 毎回、上がりの3割。残りは君達の自由にすればいい。悪い話じゃないだろう?」



「断る。今は辞めたしテメェらに納める義理もねぇ」



「交渉決裂か。残念だ。しかたがない。代わりに、可愛い彼の方に身体で払ってもらうことにしよう。 ビデオテープにしても、直接客を取らせても、彼ならきっと高く売れる。」



言われた内容に一瞬で頭に血がのぼる。

振り上げたコブシは口元に嫌な笑みを浮かべた男の頬を掠り、一筋だけ痕をつけた。



サンジに他の男が触れるなんて許さない。あれは俺の物だ。



「サンジに何かしやがったら殺すぞ」



路地裏に、コブシのぶつかり合う音が響いた。







ゾロは喧嘩には自信があるし、昔は武道も嗜んでいたせいか今まで負けた事はない。

けれども、目の前の男は踏んできた場数が違うのか、蹴りもコブシ半端じゃない威力だった。


ゾロと同等か、本気をだせばそれ以上かもしれない。



(アバラが何本かイッたな)



痛む身体を押さえ、目の前でゾロと同じく服が乱れ肩で息をしている男をどうやって倒すか考えながら・・・ 視線を上げる。





ふと・・・



視界の端に金色の髪が見えた。





どんなに暗い闇の中でも、決して見間違うことのない金色の光。



「サンジ」

呟きは声の形を成さない程小さなものだった。



けれどサンジは振り返り・・・







スブッ







鈍い音と共に、冴え凍る白刃の刀がゾロの脇腹に埋もれていった。







「ゾロ!!!」



制服スカートの裾をひるがえし駆け寄るサンジ。

そして、膝を折りゆっくりと倒れ込むゾロ。



サンジに気を取られ一瞬できた隙を男は見逃さなかったのだ。


 


(許さない許さない許さない許さない許さない・・・・・・)

サンジの、心に、体中に、憎悪が溢れ出す。



「・・・殺してやる!!!」



大気を切り裂く、悲鳴のような叫びがこだまして・・・闇色の路地裏が、一瞬で深紅の赤に染まった。



サンジの蹴りは男を吹き飛ばし、頭を割られた男は壁に激突した。

更に足を振り上げのどを潰す。



「カハッ」



男の吐き出した血でサンジの右足が紅に染まっていき・・・



足を離すと、男は壁をずり落ち、動かなくなった。







「サ…ンジ」



ゾロの呼ぶ声に、サンジは正気に返る。



「止血しねぇと。」

刀に手をのばす。



「だっ、駄目だ抜いたら血が止まらなくなる」

慌てふためくサンジは刀を抜くことも、ゾロに触る事すらできなかった。



「大丈夫だ」

腹を押さえたままシャツを脱ぎ引き裂いて、刀はそのままに、ゾロは腹を縛った。



「それよりこっちに来い」

ゾロは体を起こしながらサンジの腕を強く引き、ゾロの胸にサンジは倒れていった・・・





目の前にサンジがいる。

これは夢だろうか。



(夢でなければいい・・・)



サンジの腕に抱かれて迎える最期も悪くない。



サンジの目から溢れ出す涙がゾロの頬を濡らしていく。



(俺はコイツを泣かせてばかりだ。)

胸に強烈な愛しさが込み上げる。



けれども、出血のしすぎで、ゾロの目は段々と霞んでいってサンジの表情までは見えなかった。



(夢であればいい・・・)



夢でなければいいと思う反面、これが夢であってもいいとゾロは思う。





(夢ならば・・・愛してると言えるのに)





「少し大人しくしとけ」



「なっ何」



ゾロは体を壁にもたれかけ、サンジを膝にのせ、その制服の裾をめくる。


ゾロの指先に追い立てられるように、制服を着たまま、サンジはゾロの上で乱れていった。



ありったけの愛しさを込めて、ゾロはサンジに触れる。



血と、肉が、混じり合うような・・・

ソレは、命を繋ぐようなセックスだった。





サンジの頬を暖かい涙が伝う。



こんなに優しく抱かれたのは初めてだった・・・



このまま溶けて、一つになってしまえればいいのに。







「愛してる」。



掠れた声がサンジの耳へく。



その言葉が本当なら、このままもう目覚めなくてもかまわないのに・・・と、

意識を手放す瞬間、サンジはそう思った。



End

2005/11/30

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えーと・・・某拍手リレー女装少年のパラレルでした(笑)
すみません。

妄想したら女装少年のゾロとサンジを書きたくなってしまって・・・
書いちゃいました(笑)

ちなみに、この後2人は病院で目覚めてラブラブになるわけです(笑)
そこは各自妄想で補って下さいv

このお話は女装少年サイト様に投稿させて頂きました!
(文末の日付が献上日になってます(笑))

2006.01.26  美影 レン



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