『笑えばいいのに』

目を閉じた、マブタの裏側でさえキラキラを感じる程の、眩しい陽射しが降り注 ぐ草原で、
海原を揺れる波のように、風にそよぐ緑の草たちと一緒に、短い葉っ ぱをサラサラとなびかせるマリモが一つ・・・

風に撫でられ、気持ち良さそうに眠っておりました。


太陽の恵みは大地に平等に降り注ぎ、マリモの身体も成人男性のこぶし大の大き さに。

風に流されコロコロと、縦横無尽に草原を転がっては気に入った場所で昼寝をす る、そんな日々を送っています。



そんなある日、陽射しを遮るものがない草原で突然できた影に目を開けると、マ リモの目の前には、青年が一人。

空に掲げる太陽よりも柔らかい光りを纏う金色の髪。

空を流れる雲よりも透き通るように白い肌。

こんなにキレイな人間は

(見タコトガナイ・・・)

と、マリモはそう思いました。



次の日も、その次の日も気がつくと側に来ている青年。

そして、決まって一度だけマリモの若草色の頭を撫で、後はずっと、マリモの隣 に座ったまま悲しげに目を伏せています。

青年の悲しげな顔を見ていると、マリモも胸の奥が苦しくて仕方がありません。


(笑えばいいのに)


マリモは思います。

青年が笑えば、きっと自分も幸せな気持ちになれるのに・・・と。



そしてマリモは小さな冒険を決意しました。

サワサワ揺れる草原の、その先へ行ってみようと。

風に乗りコロコロと、一生懸命転がって、今まで一度も出た事が無い草原の、そ の向こうへと・・・・・・

自分よりも背の高い草にぶつかったり、時には土の上を転がってボロボロになり ながら。





そして、初めて辿り着いた草原の向こう側には・・・青年の髪と同じ色をした、金色 のヒマワリ畑が広がっていたのです。

風のいたずらか、頑張って辿り着いたマリモへのご褒美か・・・突然強い風が吹き、 ポトリと一輪、小さなヒマワリがマリモの元へ落ちてきました。

それを、大事に、大事にに拾い上げ、マリモはこのヒマワリで青年の髪を飾った ら、きっと喜んでくれるだろうと思います。

逸る気持ちを抑え、風に乗ってコロコロと、しかしヒマワリは痛まないように頑 張って、マリモは帰路に着きました。





いつもの場所で、いつものように青年はたたずんでいました。

その足元に、フワリとマリモは寄り添います。青年に触れられる距離まで・・・

青年は黙ってマリモを見下ろします。

マリモは小さな身体で一生懸命ヒマワリを掲げました。



けれども

どんなに望んでも、

願っても、

祈っても・・・



さしのべる花は青年まで届きません。



(ああ・・・俺が人間だったら良かったのに・・・)



(そしたらコイツの髪にヒマワリを挿してやることができたのに・・・)










と、いう夢を見た。



ゴーイングメリー号の蜜柑畑で昼寝をしていたゾロは、葉っぱの隙間を縫って差 し込んでくる陽射しの眩しさに目を細めている。


今朝早く、辿り着いたここは春島。

季節は夏。

クルーはみな船を降り、ゾロは一人船番だ。

そして、蜜柑畑から見下ろした島には、夢と同じヒマワリ畑が広がっていた。



(妙な夢見ちまったな)

カリカリとゾロは頭をかいた。

草原とヒマワリ畑はわかる。
けれど夢に出てきたのはそれだけではない。

金色の髪にあの顔は・・・


(クソコック)


淋しげだったサンジの表情が頭から離れず、ゾロは眼下に広がるヒマワリを見る 。

誰か船に戻ってきたらヒマワリを摘みに行こう。

それを生意気なクソコックの頭に飾ってやろう。

馬鹿にすんなと怒るかもしれない、そのままいつものように喧 嘩になるかもしれない、とゾロは思う。



けれど、

きっとありえないけれども・・・



(笑えばいいのにな)



とゾロは思い、再び蜜柑畑に寝転ぶと、まぶたを閉じた。



夢の中のマリモはあの後どうなったんだろうと思いながら。



End

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あまりにも更新していないので過去の拍手SSから再アップしました(笑)

ファンタジー風味で草原を転がるマリモはゾロですが(笑)
コレのサンジサイドの話も書こうと思っていたのに
内容を忘れちゃいましたorz


2006.10.18 美影 レン




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