『人間は恋をする生き物だから』




誕生日なのに犯された・・・

しかもまっさらなバージンなのに強姦なんて酷くねぇ?
(いや、男にバージンも何もねぇだろ)
自分で突っ込みを入れてみたものの・・・された行為の事実が変わるわけもなく。
 (誕生日の朝。目覚めて最初に思った事がケツが痛テェ・・・なんて最悪だ)
 昨晩、散々蹂躙されたベッドの上で、痛む身体を毛布に包みサンジは横たわっていた。

格納庫のドアの隙間から淡く差し込む光りは、まだ夜が明けきっていない事を教えている。夜と言うには空は白く、 朝と言うにはまだ薄暗い。当然クルーは全員寝ているし、普段の自分もまだ起きていない時間。昨夜サンジを蹂躙した本人が、 どの面下げて眠っているのか見てやろうと、サンジは部屋を見渡した。
(・・・ってか、いねぇし!)
なぜか綺麗にメイキングされたベッドの脇には、脱がされ放られたシャツがパサリと落ちている。その先にはシャツを脱がされた勢いで、 胸のポケットから飛び出したシガーケースと、刀でぶった切られたネクタイが点々と床に広がっていた。
その有様に、昨夜の行為を思いだす。





翌日の自分の誕生日の宴会の為に、仕込みをするサンジ。
ぼんやりと時計を見て、誕生日のことを考える。

本当なら、明日には島に着くはずだったが 途中出くわした嵐のせいで、ほんの少しだけ予定よりも 到着が遅れてしまった。

「島で買出しをするつもりだったからプレゼントが用意できてないの。 ごめんさない。」
とナミさんは言っていたけれど、みんなに一言「おめでとう」と 言われれば、それだけで嬉しいもんだ。

たとえ、誕生日にかこつけた宴会で、その準備をしているのが自分だとしても。

「その代わり食材は贅沢に使って良いって言ってくれたしな。」

何を作ろうか考えながら、サンジは手際よく食材たちの仕込みをしていく。

キィ・・・・

扉の軋む音と共に、靴音がラウンジへと入って来た。

振り返らなくても、相手が誰かなんてサンジにはすぐにわかる。

(伊達に片思いなんてしてねぇよ・・・)

「今夜の不寝番はてめぇじゃねぇだろ。さっさと寝ろよ。」

自嘲ぎみに笑みを噛み殺してサンジは言う。

「あぁ・・・ウソップと代わった。だから今夜は俺が見張りだ」

「そうか、じゃぁ夜食作るからちょっと待っとけ。」
ゾロに夜食を作ろうと、サンジは仕込みをの手を止めた。
「いや・・・それより、ちょっと。来いよ。」
腕を取られ。格納庫へ連れて行かれる。
「おい、何だよ」
真っ暗なはずの格納庫へ足を踏み入れると。淡いランプの灯りがあった。

(・・・は?ベッド???)
ランプの脇にベッドがある。そして、なぜかそこからは良い香り。
状況が飲み込めず呆然としていると、後ろからゾロが近寄ってくる。
振り向きざまに足を払われ、気がつくとベッドに押し倒されていた。
人間、予想の範疇外の出来事にはとっさに反応できないらしい、あっという間に服を剥ぎ取られ、正気に戻る頃にもう・・・ ゾロのブツで貫かれていた。





目が薄ぼんやりとして、ぽたりと雫が落ちてきた。

胸の奥が、ぎゅうっと苦しくなる。
これが、ゾロ以外の相手であればこんな想いはしない。
ぶちのめして海の藻屑にしてやればいい。
でも、ゾロだから。

好きな相手だから・・・

ゾロに気持ちがないのに犯されたことが・・・とても悲しかった。

パタパタと落ちる涙を手でこすると目元が少しヒリついた。

けれども、いつまでもこうしているわけにもいかない。ベッドに転がって現実逃避をしていても事実が変わる訳でもないし。
(朝飯の支度でもするか・・・)
と、床に落ちるシャツを拾い軽く袖を通す。
一歩あるく毎に、ありえない場所にありえない痛みが走る。

いつもよりも重く感じた格納庫の扉を開けると、甲板を抜け、ラウンジに向かう階段を、いつもより時間をかけて上りきる。
顔を上げると、船尾の更に後方、同じ色に染まる空と海に、中央から両サイドに向かって光りの帯が引かれ始めていた。暗い気持ちとは裏腹に、 空は軽やかなミルク色に染まっていく。
(もう夜が明けるのか)

ふと、甲板に差し込む光りの中、ヒラリと船尾で白いものが揺れた。
船尾マストから、柵に向かって伸びたロープに掛けられ、はためく白い布。
そして、ゾロがいた。
姿を視界に捉えた瞬間心臓がはねる。
逃げ出したい気持ちになって、それから(何で俺が逃げなきゃいけねぇんだ)とサンジは思い直しゾロに近づく。

「何やってんだよ」
「・・・洗濯」
ロープに掛けられた白い布をパンパンと伸ばしながらゾロは答える。
ゾロの手により広げられた白いソレは・・・シーツだった。
しかし、よく見るとところどころ破れている。
「もっと丁寧に洗えよ。端とか破れてるじゃねぇか。」
「あぁ。でも汚れが落ちなくてな。」

何の変哲も無い、日常的な会話。

まるで、昨夜の出来事が嘘のように。
(何だその普通の態度は。アレは夢か?あぁ?強姦しておいてちっとも悪びれてねぇ)
イラつく気持ちのままゾロを睨みつけるとクルリとゾロが振り返った。
「お前、身体は大丈夫か?」
「・・・・・・」
一瞬サンジは沈黙する。

「はぁ?大丈夫もクソもあるか。腕が痛てぇ。腰が痛てぇ。ケツが痛てぇ!最低だ!」
罵声と共に蹴りを放とうとサンジは脚を振り上げるが。
「痛っ・・・てぇ!」
悲鳴を上げに甲板に撃沈した。
「馬鹿。無理すんな。昨日あんだけヤッたんだから大人しくしとけ。」
床にうずくまるサンジを、ヒョイと持上げる。ゾロは、あぐらをかいた自分の膝の上に、横向きにサンジを座らせた。
「今更、身体を気遣ってんじゃねーよ!強姦魔のくせに!」
「強姦?んなことねーだろ。」
不思議そうにゾロは首をひねる。
「 “もっと”って言ったじゃねぇか。自分でケツ振って。善がってただろ」
「な・・・・・・!」
そんなことない。と否定しようとしたが、その瞬間。すっかり抜け落ちていた、昨夜の後半部分の記憶がフラッシュバックした。



『・・・ふっ・・・あ』

『ソコ・・・もっ・・・と』

『・・・あっ・・・・はぁ』

『キモチい・・・ゾロぉ・・・』


 
 信じられないセリフと共に、ゾロにしがみついて、散々喘いだ姿を思い出した。
 サンジは顔を真っ赤にして、水から放り出された金魚のように、口をパクパクさせている。
 (・・・そんな馬鹿な)
 あれじゃまるで・・・

 (恋人同士みたいなセックスじゃないか)


と、思ったが、すぐさま頭をぶんぶん振る。
 (アホか!)
 (そもそも、ゾロが俺を好きじゃなきゃ意味ねぇだろ。)
 (身体だけなんて・・・!)
朱に染まった顔を、今度は白くさせて、サンジは唇をかみ締める。

 (だって・・・俺は・・・・・・ゾロが好きなんだ)

   膝に乗せたサンジの表情が段々と暗くなっていく。
すると、
「あ。いけねぇ忘れてた」
とゾロが、ガサゴソと腹巻を探り始めた。
出てきたのは、青い花。
そして、そのまま、サンジの髪に挿す。
 サンジの左の耳の上あたりに飾られた青い花は、朝日を浴びて輝きを増した、サンジの金色の髪によく映えている。
「・・・何だ。コレは。」
「採ってきた。プレゼントに身体だけってのもなんだしな。誕生日には花を贈るもんだろ?」
ゾロの言葉に目を見開く。
「おい、待て。今プレゼントって言ったか。」
「おう。」
(プレゼントが・・・身体・・・もしかして)
「昨夜のアレは誕生日プレゼントのつもりか!!!」
「ああ。」
平然と答えたゾロに、サンジはガックリと肩を落とした。
どこの世界に、野郎の身体を贈られて喜ぶ男がいるんだよ・・・いや、いたとしても、それは特殊な場合で普通は無い。
(マジかよ・・・)
ゾロの思考回路に頭痛がした。
「お前の誕生日に、次の島への到着が間に合わねぇから、プレゼントが用意できねぇってお持ってたら、 ナミにそうしたら良いって言われてな。」
「え!ナミさん!!!」
突然出てきた名前に慌てる。
(もしかして・・・ゾロのこと好きだってバレてる・・・)
「でも、やっぱそれだけじゃ味気ねぇかと思って、コレも探してきた。」
ゾロが、サンジの髪を撫でると、飾られた青い花が揺れた。
「花、どっから採ってきた。」
「島から。」
見渡す限りの海。島影なんか一つも無い。
「んなもん無ぇだろ。」
「次の島が近いって言ってたじゃねぇか。だから泳いで行って、採ってきた。」
この海を泳いで。しかも夜中に。危険極まりない行為だ。

でも・・・
(俺に花を贈るためだけに・・・こいつは)

胸の奥がぎゅっとなる。

もしかして・・・こいつは、俺の事が・・・好きなんじゃねぇだろうか。と、ちょびっとだけ思ってみた。
ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
ゾロの膝に乗せられた体勢のまま、ゾロを見つめる。
「てめぇ。俺に・・・言う事があんじゃねぇ?」
「・・・・・・」
「なぁ。言ってくれよ」

「あ・・・誕生日おめでとう?」
ゾロが少し横を向いて言い放つ。でも逸らされた顔は耳まで赤い。
 
「疑問系かよ。アホ。そうじゃなくて。もしかしたらお前・・・・・・俺のことが・・・」



「おはよう。サンジくん。良い朝ね。」

(!!!)

ガスッ!

背後から聞こえた声に、慌ててゾロを突き飛ばしてサンジは立ち上がる。
「ん〜ナミさん!おはようございます!こんな早朝から麗しいお姿を拝見できるなんて幸せだぁ〜」
くるくると回りナミの元へ。
普段どおりに振舞おうとして、おかしなテンションになっているサンジを見て、ナミはニヤンと笑う。
「今朝の食事は、あたしとロビンで作るから、サンジくん朝はゆっくりしてって言ったのに、起きちゃったの?」
 そういえば、そんな事を言われた気もするが、すっかり忘れていた。
 「洗濯?もしかしてゾロに手伝わせたりした?」
サンジの後ろで、ハタハタと風に揺れるシーツに目をやり、ナミは言う。
 「え、や、あ、うん。そう、マリモにやらせました。」
 「そう。じゃあ、ちゃんと誕生日のプレゼントをしたのね。
「・・・!」
 サンジの表情が固まる。
「ゾロがね、サンジくんへのプレゼントが無いって言うもんだから、身体で払ったら良いじゃないの?って提案したのよ。 ゾロなんか肉体労働でしか役に立たないじゃない?

皿でも洗えば良いと思ったけど、洗濯を手伝ったのね。」
 ニコニコと・・・ナミはこぼれんばかりの笑顔を見せる。

 (・・・え?肉体労働?)

「・・・プレゼントに皿洗いでもすればって?」
「そう。実際は洗濯だったみたいだけど」

(・・・!)

これは。

ゾロの思考。身体で払うプレゼント→夜のご奉仕。
ナミの思考。身体で払うプレゼント→サンジの手伝い。

「ってめぇ・・・間違ってんじゃねぇか!!!」

今度はまともにゾロの腹に蹴りが入り、綺麗な放物線を描いて飛んでいった。
メリー号の後ろに続く、白い波の軌跡の先でポチャンと海に落ちる音がした。
(あのクソまりもが!おかしな間違えしやがって・・・)

でも贈られたのはそれだけじゃない。

(気持ちがねぇわけじゃ・・・ねぇのかな?)

ものすごい勢いで泳いで戻ってくるゾロを見るサンジの顔はうなじまで赤い。


髪に、青い花を挿したままで。





ちなみに、昨夜、コトに及んだ格納庫のベッドメイキングは、ナミに脅されて
「何で俺がこんなことを・・・」
とぼやきながら、ウソップが行い。
「コックさんが喜んでくれると良いわね」とシーツに香油まで振りかけたロビンだったという事を、サンジは知らない。



おしまい

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昨年のHARUコミでの無料配布本です(笑)
丁度サンジのお誕生日ネタだったので使いまわしてしまいましたよ(笑)

2007.03.21 美影レン

サン誕Top