『千年の孤独』


多分、今一番会いたくない人間に会った。


「そんなところで何してるのさ?」

「絡んできた不逞浪士を、斬り捨てただけですわ。」

は、刀に付いた血を懐紙で拭うとそのまま鞘へと仕舞い、足元に広がる血溜まりに背を向けて歩き出す。

「呼んでくれたら俺も手伝ったのに。最近、任務に張り合いがなくてつまらないよ。あんたと一緒にいれば、少しは骨のある奴と戦えるかな?」

の後について歩く大石が言う。



肺を患った沖田が、静養の為に大阪に下ってから何日も過ぎた。
けれど・・・一番隊で沖田の傍らにいたの存在を記憶している浪士は少なくなく、沖田に仲間を斬られた事に恨みを持つ者は、 その対象をへと向けていた。
巡察でも非番でも、名指しでを襲う輩が後を絶たなくて・・・もちろんその中には手練の者もいる。
大石はその事を言っているのだろう。


「それにしても、つまらなそうに人を斬るよね。こんなに機会に恵まれているんだからさ、もっと楽しめばいいのに。」

「・・・人を斬る事を、楽しいと思えた事はありませんわ。」

「そうかい?でも、俺はあんたが、本当は人を斬る事を望んでるんだと思ってるけどね。」

その言葉に、ピクリと肩を揺らし、は大石を振り返る。

「・・・何故ですの?」

「そうでなければ、こんな非番の日にまで、たった一人でわざと狙われやすいような場所を、うろついたりはしないだろ?」

屯所から離れ、市中に一人で赴き、人目につくところを散々歩いた上に・・・夜には人気の無い方へとは向かっていた。
その結果が足元に広がるコレだ。

けれど・・・

「邪推、ですわね。」

眉を顰め、は大石へきつく言い放つ。


もちろん、その答えに大石が納得するわけもなく、再び否定の言葉を口にしようとしたが・・・それよりも先に、が大石へと問いかけた。

「大石さんは何故新選組に入隊されたんですの?志を持って・・・とは思えませんけれど。」

「思う存分、人を斬る為さ。皮を切り裂き、肉に刀を埋める感触は堪らない。それが強い相手ならなおさら楽しいだろ?」

大石は口角を上げニヤリと笑って答える。

「だから、あんたとも一度斬り合ってみたいと思ってたんだ。暇ならちょっと稽古でもつけて欲しいな。さん。」



スルリ・・・と、刀を抜いた大石の誘いに、は乗った。





キンッ・・・


乾いた高い音が何度も響き、刀を合わせてはお互い離れていく・・・それを繰り返す。

「つまらなそうな表情で人を斬るって言ったけどさ・・・今のあんたの瞳は違う色をしてる。本当は人を斬りたいんだろ? そうでなければ、何で刀を振るうのさ!」

言われて、初めて心に問いかける。
この国の為に、近藤さんの為に・・・そして、沖田さんに追いつくために、ずっとずっと刀を手にしてきた。
でも、その背中はもう自分の目の前には無い。

沖田さんがいない。

ただ・・・それだけなのに、淋しくて。


誰と話をしていても

何をしいても

消えない深い孤独。


けれど、刀を手にし、人を斬る・・・この瞬間だけは、淋しさが消えた。
刀を合わせるその相手の・・・後ろに、沖田さんを重ねていたから。

淋しくて、刀を合わせる相手を求め、斬り殺す。
斬り合う間だけ忘れられる淋しさは、終った瞬間に虚しさに変わり、また次の相手を探しに足を向ける。
その繰り返しで・・・


「ただ、人を・・・斬らずにはいられないからですわ。」

(楽しみで人を斬る大石さんと、淋しさで人を斬る私・・・如何ほども変わりはありませんわね)

暗い笑みを浮べ、は答える。


そのの言葉に・・・大石が笑った。

「だったら、これからは、俺と斬り合わないか。毎日、時間の許す限り。弱い奴と殺りあうより、俺の方が楽しいだろ?」







子供のような笑みで







「愛を囁くよりも、身体を重ねるよりも、ずっと刺激的だと思わないか。」







刀の一振りごとに







「あんた・・・俺の物になりなよ。」







言葉が







「斬って、斬って、斬り合って、いつか死んでも・・・人を斬り過ぎた俺とあんたは、きっと地獄に堕ちるから・・・地獄の底でも斬り合おうよ。」







低い声が







「あんたの淋しさを埋められるのは、きっと俺だけだ。」







呪歌のように、心に染み込んでいく。










笑いながら人を斬る大石さんは、出会った頃の沖田さんに・・・少しだけ似ていた。



(でも、きっと駄目ですわ)


他の誰に愛を囁かれても・・・
この孤独を埋めてくれたとしても・・・

きっと違う。

想いを寄せる相手に、愛されない事は、とても辛い。
けれど自分の心は誤魔化すことはできず・・・
身代わりなんて・・・ありえない・・・と、そう思う。















例え、この孤独が、千年先まで続くとしても・・・・・・















キンッ・・・と、一際高い音をたて、刀が宙を舞い地面へと突き刺さった。

刀を、飛ばされたのは大石の方だ。

「流石、さんだ。簡単には勝たせてもらえないね。」

肩を竦め少しだけ、悔しそうに笑う。

「また今度、手合わせしてもらってもかまわないかな?やっぱあんたと斬り合うのは楽しいよ。」

「考えておきますわね。」

答えたは優しく微笑み、踵を返した。



「俺は・・・あんたを諦めたわけじゃないから。」

背中に小さく届いた大石の声に、は聞こえないふりをする。



(・・・沖田さんに会いたい)


(今すぐにでも)


(大阪に行けるよう、土方さんにお願いしてみようかしら)


会って、ただ声を聞けるだけでも良いから・・・そう思って・・・

は、屯所へと戻る足取りを速めていった。





【終】

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ある台詞を言わせたくて、本当は沖田さんか大石さんか迷ったんですが
結局大石さんに言ってもらう事にしました。(笑)



2006.10.01 紅月レン



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