『 切ない距離 』
青い空に流れる風が雲を溶かし、空はより高く青く染まっていく。
屯所の敷地内に建てられた道場では、今日も威勢の良い掛け声が上がっており、高い空へと響き渡っていた。
その、道場から少し離れた位置で竹刀を振る人影が見える。
「よぉ、。今日は一人で稽古か?」
「原田さん…」
竹刀を振る手を止めたは少し困ったように微笑む。
「なんだぁ浮かない顔して。そう言や、今日の剣の稽古は、総司が当番の日なんじゃなかったか?お前は行かなくても良いのかよ。」
「沖田さんに、外で稽古をするよう言われましたの」
クスリとは笑うと道場へと視線を向ける。
(また・・・アレやってんのか…総司は)
を道場から追い出した理由に思い当たり原田は苦笑いを浮かべた。
「沖田さんは・・・私が邪魔なのでしょうか・・・ときどき、こうして道場を追い出されますわ。」
は、道場から出るように言われても、沖田の声が届くこの場所で・・・竹刀を振っている。
同じ処にいれないのならば・・・せめて声の届く距離で・・・と。
「んなこたねぇよ・・・あんま気にすんなって、な?時々、平隊士と遊んでやりたくなるんだろ。あいつの行動に深い意味は無ぇよ。」
うつむき呟くに、原田は言う。
「ええ・・本当に、沖田さんは刀を振るうのが好きで・・・仕方がありませんわね。」
顔を上げ手を口元に当て、クスクスとは笑う。
けれど、口元は笑みを浮べても、少しだけ眉が顰められていて・・・
「・・・笑うな。」
と言うと、原田はを真っ直ぐと見つめた。
「楽しかったり、嬉しかったときに笑うもんだ。辛さを隠すために笑うんじゃねぇ。」
原田の言葉に、は表情を失くす。
「でも・・・一度笑みを絶やせば、二度と笑えなくなりそうですもの。」
「だったら泣けば良いんだよ。悲しい時にちゃんと泣けば、嬉しい時に笑えるようになるからよ。」
「・・・そうでしょうか。」
「ああ・・・だから、泣きたくなったら俺を呼べよ、お前の為なら・・・いつでも胸を貸してやるから。」
触れてみたいと、そう思い・・・の頬に指を伸ばした・・・その瞬間
「さん!」
道場から顔を出した沖田が、を呼ぶ声がした。
「・・・はい!」
慌てて答えると、は沖田を振り返る。
伸ばした手が届く前に・・・その身体が離れ、背を向けられた瞬間風になびいた長い髪が、原田の指先を掠めていった。
「平隊士の稽古が終了しましたから、次は貴女の番ですよ。こちらに来て下さい。」
「わかりました・・・直ぐに参りますわ。」
あと少しで・・・に触れることができたのに。
原田は、行き場を失くした手を、ぎゅっと握り締める。
「では、沖田さんに呼ばれましたので、失礼致しますわね。」
原田へ軽く頭を下げると、は道場へと足を向け・・・ふと立ち止まる。
「もしかしたら・・・辛くなったら、お借りするかもしれませんわ。原田さんの胸を。」
少しだけ振り返り、はにかむように笑うと・・・はパタパタと沖田へ向って駆けていった。
「・・・っ・・・・・・・」
そのの笑みに原田は一瞬息を止め・・・
「参ったな・・・本気になりそうだぜ。」
あと少しで届きそうだった指先を眺めると、困ったように苦笑いを浮べた。
【終】
--------------------------------------------------------------------
沖田さん夢みたいじゃないどころか・・・
主人公が原田さんみたいになってしまいました(苦笑)
次のお話は、ちゃんと沖田さん出ますので!
2006.10.09 紅月レン
戻る