『 紅い花が香る 』


夜の巡察から戻った一番隊の集団に目を向けると、ふと・・・違和感に気付いた。

がいねぇな・・・)

隊務の際には必ず総司の脇にいるはずの姿が無い。

はどうした?」
総司に尋ねると

「屯所の周りを一周してから戻ると言うので許可しましたよ。」
と、ニコニコ笑いながらの返答が帰ってきた。
けれども、上機嫌な総司とは対照的に、平隊士たちの顔色は青ざめている。

(こりゃぁ何かあったな…)

屯所の周りを回ると言ったが、それは本当なのだろうか?少しの不安を抱え外に出る。
・・・と、屯所を囲む塀づたいに、転々と血の跡が残っていた。

これはの血かと、一瞬嫌な考えが浮かぶが、慌てて頭を振る。
もし、そうであれば総司が放っておくはずがない。

足跡に、徐々に消えそうになる血の跡を辿り・・・着いたのは、屯所の裏手から少し離れた位置に在る神社だった。





淡い月明りの中でが刀を振っていた。
頭から足の先まで紅色に染まり・・・全身血塗れの姿で。

神社の脇にある御神木に寄り掛かり、腕組みをすると、原田は気配を消してを眺める。
一振一振に静かな殺気が込められ、月明りに光る刃が空を切り裂いていく・・・



「何か、御用ですの?・・・原田さん」

どれくらいの時が経った頃だろう、が、ふと声を掛けてきた。

「いや。用じゃねぇけど、こんな時間に女一人じゃ危ねぇだろ?」
その言葉に、一瞬の肩が揺れた。

「女、女って・・・女だからって殿方よりも弱いと・・・原田さんもそうおっしゃいますの!」

叫ぶように放たれた言葉と同時に刀が閃き、剣先が原田の首元で止まる。
「私だって新選組の隊士ですわ。刀でなら原田さんにも負けないと思いますけれど」
は・・・口元を歪め冷笑を浮かべた。





の頭に、半刻前の出来事が甦る。



一番隊の巡察で、沖田よりも半歩後ろの左側には居る。
そこはの定位置だ。
ただ、その夜に出くわした、不逞浪士の様子だけがいつもと違うものだった・・・

「おいおい。新選組ってのは、女連れで巡察するもんなのかぁ?良い身分じゃねぇか。」

へと嫌な視線を向け、二人組みの浪士が絡んでくる。

「ちょっと待てよ、こいつ帯刀してるぜ・・・女が刀を持つなんて、生意気なんだよ。男の背中に隠れてるくせに、大小下げて武士気取りか。」

隣の男は腰の刀へ目を向けると、そのまま舐めるように、の身体へ視線を這わし
「お前みたいな女は、刀を振るより、男の上で腰でも振ってた方がお似合いだぜ。」
ククっと喉の奥で笑う。

「案外その為に連れて歩いてるのかもしれねぇぜ。」


男達の言葉に・・・平隊士達が青ざめた。


「残念だな、今夜は貴女へ指名のようですよ。」
肩を竦め沖田が、一歩後ろに下がると、代わりにが前に出る。

腰に下げた緋色の刀に手を掛け、浪士達へと向う。

クルクルと舞を舞うように・・・扇を閃かせるように軽やかに、刀が空を斬り・・・
声も無く、誰かが止める暇もなく。
の刀の走る音とともに、血と肉の欠片が空中を散っていった。

まるで・・・薔薇の花びらが風に舞い落ちるが如く。

数十秒後だか、数秒後だか・・・かつて人間だった肉片が、原型をとどめない程切り刻まれ、広がっていた。
刀を軽く一振り。そのまま鞘に収めると、血を全身に浴びたまま、は沖田を振り返る。
「不逞浪士を・・・排除致しました。」
口元に笑みを浮かべたままで・・・・・・







「私の・・・剣の道に進みたいという想いを愚弄する者は、誰であろうと許しませんわ!」

原田を真っ直ぐと見据えてくる瞳の奥に紅蓮の炎が見える。
いつか総司が、の事を大輪の薔薇のようだと言っていた事を思い出した。
確かに、この姿を・・・激情を胸に抱いて剣を振るう姿ばかり見ていれば、紅い薔薇のようだと思うかもしれない。

首筋に刀を当てられ視線を合わせたまま、ゆっくりと距離を縮め

ちゅっ

と、唇に口付けた。


は・・・怒ってる姿も、綺麗なんだな。」


突然言われた言葉に、は一瞬きょとんとした表情をしたが、段々と頬が染まっていく。

「お前がそこまで怒るところは初めて見たけど、中々イイもんだ。」
ニヤリと原田は笑う。

続く台詞に毒気が抜かれたのか、は刀を鞘へと収め

「もぅ…本当に、原田さんはお口が上手いですわね」

少しだけ苦い表情で微笑みを浮かべた。


「では、気も晴れましたから屯所に戻りますわ。」

その、踵を反そうとするの腕を掴み、原田が引き止めた。

「そのままで戻るのか?」
指を頬へと伸ばし、血を拭おうと親指を擦る。
けれど、乾きかけの返り血は軽く拭ったくらいでは落ちず、頬に血の跡が広がるだけだ。

「そのまま・・・って。何がですの?」
不思議そうな顔では原田を見上げる。

そのを、ゆっくりと腕の中に抱き寄せ、耳元で囁いた。


「俺以外の男の匂いを纏ったままなんて・・・妬けるだろ?例えそれが血の匂いでも・・・だ。」


血を吸った着物のせいで、いつもよりも少しだけ重く感じる細い身体を抱き上げ、神社の境内の奥へと向う。


「こんなところで、罰当たりですわね。」

クスクスと笑みを零すは原田の首に腕を回し


「俺は神なんか信じてねぇからな。」

ニヤリと笑みを浮かべると、原田はの項に唇を寄せる。





笑い合う二人の声は溶け、血と花と雄の香りが交じり合っていった・・・・・・





【終】

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ちょっと雰囲気を変えてみました。

時間軸は後の方・・・と言うことにしてください(笑)

こう・・・あまりに仕事仕事で気持ちが荒んでしまったので
原田さんに癒してもらいました(笑)
仕事でイラってした時には、作中の原田さんの台詞を思い出して
下さいませv


2006.10.22 紅月 レン



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