『 この恋の業の深さ 』


闇色から乳白色へと空が移り変わる時刻、屯所は清廉とした空気に包まれていく。

障子越しに広がる光が、蒼銀の髪と白い肌を柔らかに照らし、隣に眠る愛しい人の顔を映し出した。

決して追いつくことがない・・・と思っていて、でも諦めることができなくて。

ただ見つめ続けていた遠い日々を思い返す。


壊れ物に触れるように、そっと頬へ指を伸ばすと、その手をつかまれた。

ふるり・・・と、殿方にしては少し長い睫毛が揺れ、藍青色の鋼玉・・・宝石のような瞳がを見上げる。



「お早うございます。さん。」

「お早うございます。総司さん。もう目覚めてしまわれたのですね?まだ夜は明けきっておりませんわよ。」

「貴女の起きる気配がしましたからね。」

クスリと笑って沖田は答えると、を見つめ・・・ふと小首を傾げた。


「・・・何かありましたか?」

「何故、そう思われますの?」

少しだけ苦笑いを浮かべは問い返す。


「僕が隣にいるのに・・・貴女は、淋しそうな表情をしていますよ。さん。」

掴んだままの手を引き寄せると、沖田はの指先に口付けを落とした。


「総司さんに出逢った頃の夢を見て・・・あの頃の事を思い出しておりましたの。」

「でも、僕は今、貴女の傍にいますよ。」

「わかって・・・おりますわ。」

柔らかく優しい笑みを浮かべる沖田を見て、安心したようにも微笑む。



沖田は、引き寄せた手とは逆の腕をの首へと回し、瞳を伏せると、ゆっくりと二人の顔が重なっていった。

出会った頃よりも伸びた紅梅色の髪が、サラサラとの肩口を流れ落ち、 沖田の枕元へ広がっていく・・・





頬を。


唇を。


項を。


鎖骨を・・・



の白い肌の上を、同じくらい白い指が辿っていって・・・



沖田は、の胸の・・・心臓の脇に残る、小さな傷痕の上で指を止める。

その痕は、背中の同じ位置にも細く小さく残っていた。



祈るように目を閉じて・・・その傷痕に、沖田は静かに接吻を落とす。


「貴女が・・・他の誰かのものになるくらいなら、いっそ死んでしまえば良いと思って刀を向けたのに。結局、殺すことはできませんでしたね。」

の身体を貫いた、沖田の愛刀『清光』は、の命を奪うことは無く・・・ただ、生涯消えない痕をその身体に残しただけだった。

心臓も、肺も・・・大事な臓器の全てを避けて。


「あの時は、良順先生も、生きているのは奇跡だ・・・と、おっしゃっておりましたわね。」

目を細め愛しげに沖田を見つめる


けれども・・・沖田は、真っ直ぐな視線に少しだけ苦しげに呟いた。

「憎しみで、命を奪うことだけを考えて刀を向けたのは・・・後にも先にも一度だけ。さん・・・貴女にだけです。」


奇跡の果てに手に入れたこの恋を手放すことはできないと・・・そう思うのに、 他の誰かに奪われるくらいならきっと同じ事を繰り返してしまうだろうと、沖田は思う。





何度でも

その胸に刀を沈めて


何度でも

消えない傷痕をつける





さん。貴女を、他の誰にも渡したくない。僕の前からいなくならないで・・・・・・」





今にも泣き出しそうな表情の沖田を腕の中に引き寄せると、はその額に口付ける。


「初めてお会いした時から・・・この瞳が、総司さんを映した瞬間からずっと、私の心は総司さんだけのものですわ。」

胸に置かれたままの沖田の手を、そっと両手で包み込んだ。



「言葉が心の証にならないのでしたら・・・」



「いつでも、この身体を引き裂いて・・・」



「心臓を捧げても構いませんわ。」






(この世界の、貴方以外の誰にも、理解されなくていい・・・・・・)






命を捧げる、それが愛の証。








何もかも奪って・・・奪われる

この恋の業の深さを・・・

知るのは互いだけでかまわないと、そう願いながら・・・・・・



繋いだ手を・・・強く・・・・・・強く、握り締めた。





【終】


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沖田さんで微甘なお話を書きたくなったので、また順番を入れ替えてしまいました。


いつか辿り着く遠い未来のお話。

でも、此処まで書けるかな・・・と言うか途中で気が変わる可能性は大ですが(笑)





2006.11.04 紅月 レン



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