『ある晴れた日に』
暖かい午後の日差しが屯所を包む中、仕事の息抜きにと部屋を出てきた俺は、ふと珍しい光景に出くわした。
日の差し込む縁側に、まるで花が置かれているかの様に紅い姿が横たわっている。
縁側から外へ向かって下ろされている手の先には、総司の黒猫がじゃれついていて、ゆらゆらと指先が揺れていた。
「こんなところで転がってるなんて、女の子のする事じゃないぜ?くん。」
「・・・近藤さん。」
近づく俺の影が頭の日差しを遮ると、くんは横たわった体勢のまま、ゆっくりと視線だけを俺の方へと移動させてきた。
ぼんやりとした表情と、呟かれるように零れた声には覇気が無い。
「今日は非番かい?」
「ええ。今朝、刀を研ぎに出しましたから、夕刻には取りに行くのですけれど・・・それまでする事がなくて。」
言われて見ると、確かにそうだ。
縁側に寝転がる彼女の脇に置かれた刀は、普段持ち歩いている緋色の刀ではなく、黒の代刀だった。
「市中で着物でも見るなり、誰かと食事に行くなりすればいいんじゃないかい。」
「・・・そんな気分ではありませんでしたの。」
「元気が、無いね。」
「そう見えますかしら。」
「ああ。そんな無防備な顔、くんらしくないぜ?」
「・・・外に行く気にも、部屋で過ごす気にもなれず、ぼんやりとしておりましたら、猫さんが寄ってきて・・・触っていたら、
この場所から動けなくなってしまいましたわ。」
瞳を伏せて自嘲気味に笑う、そんな姿も彼女らしくない。
「何かあったのかい?」
「いいえ・・・何も。」
「そうは見えないけどなぁ・・・」
「・・・何があったという訳ではありませんのよ、本当に。
・・・ただ、こんな風に天気が良くて穏やかな日には、色々なことを考えてしまいますの。」
「・・・・・」
「近藤さんは・・・人を愛する事を知らない事と、誰でも同じように平等にしか愛せない事と、
誰かを深く愛しすぎて心を壊してしまう事は・・・どれが一番哀しいことだと思われますか?」
ぼんやりと宙を見つめたままのくんは、きっと、俺が返事を返す事を期待してはいない。
「申し訳ありません。おかしな事を申しましたわね。」
伸ばした指先に擦り寄る黒猫に視線を移すと、愛しげな表情を浮かべくんは微笑んだ。
「以前は、猫になりたいと思っていた事もありますけれど・・・今は、鳥になりたいと思いますの。
望まれた時に、望まれた歌を・・・ただ歌うだけの鳥に。」
鳥ならば・・・哀しくなる事も淋しく思うこともありませんでしょう?・・・と呟きながら瞳を閉じる。
「くんが鳥になるなら、俺は宿り木になろうかなぁ。・・・飛ぶのに疲れたら、いつでも羽を休めにおいで。」
俺の言葉に、一瞬泣きそうにくん表情が歪んだ。
けれども、その瞳が涙に濡れることは無く、
「君は・・・・・・」
(誰の前でなら、涙を見せる事ができるんだい?)
そう、問おうとして止めた。
くんが誰の為に歌うのか・・・
誰の前でなら泣く事ができるのか・・・
きっと、それは俺が知ってはいけない事なのだろう。
「君はいつも頑張りすぎだからねぇ、たまにはこんな風にゆっくりするものいいかもしれないな。」
「・・・・・・」
「どうだい、良ければ膝枕くらいはしてあげてもかまわないぜ。」
「でも、近藤さんはまだお仕事がありますでしょう?土方さんに怒られてしまいますわよ。・・・お気持ちだけ受け取っておきますわ。」
「あ・・・・仕事ね、それはあるけどくんの方が大切だぜ?必要になったらいつでも言ってくれよ。膝枕。」
にっこりとくんへと笑みを向けると、少しだけ苦笑いのような笑みが返ってきた。
「手に馴染んだ刀がなくて・・・少しだけ弱気になってしまったのかもしれませんわね。約束の刻限には少し早いのですけれど、
もう仕上がっているかもしれませんし・・・私の大切な相棒を迎えに行って参りますわ。」
ゆっくりと身体を起こし立ち上がると代刀を腰に差し、くんは「ん〜っ・・・」と一度だけ大きく伸びをした。
天に伸ばす指先が日の光を集めて柔らかに色づく。
太陽の光りを集め鮮やかな笑みを浮かべるくんは、もう普段の彼女だった。
俺は、誰の味方もできないけれど・・・
(君がいつでも笑顔で居れる事を願ってるぜ?)
【終】
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えっと・・・久し振りの夢の更新が此れですみません(苦笑)
その他でアップするか迷ったのですが、一応(?)固定ヒロインなので
此処にアップする事にしてしまいました(笑)
珍しく近藤さん視点のお話ですが、私の中の近藤さんのイメージはこんな感じです。
本当は色々な事に気づいているけど、敢えて介入しない優しさ・・・みたないな。
大人の男の人ですね(笑)
内容は凹んでいるときに書いたものなので、特に深い意味はないのですが(苦笑)
あと姿絵の方に同タイトルの絵がありますが、そっちとも特に関連はありません(苦笑)
なんか他に合うタイトルが見つからなかったので同じにしてしまいました。
そして、こちらのお話は
『ワン★だふる本舗』 youさまに、捧げさせて頂きましたv
2007.03.04 紅月 レン
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