『鳥が歌う』
肌を合わせた後の引かない熱を持て余したまま、原田は腕の中にある柔らかい体を抱き寄せる。
床に座り込み、原田の胸に背を預け、ぼんやりとは宙を眺めていた。
互いを隔てる着物も今はなく・・・原田は腕と胸に・・・は背中と胸元に・・・相手の肌を感じている。
草木も眠る時間よりももっと深く・・・けれど朝には届かない時間。
屯所は起きている人間の気配もない。
二人きりで過す静かな部屋に、微かな声だけが響き・・・
『 月は紅に染まり 星は地に堕ちる
闇色の夜の淵で 愛してるとは 言えないけれど
貴方の為だけに この歌を歌うから
二度と飛べないように この羽根を焼いて欲しい 』
小さく動くの口元から、囁くような甘い歌声が零れていく。
「なぁ・・・何を歌ってんだ?意味わかんねぇよ。聞いたことねぇ言葉だし。」
「異国の歌ですから。わからないのは仕方ありませんわね」
「歌詞の意味は教えてくれないのかよ?」
原田は少し拗ねたように、後ろからのうなじに顔を伏せた。
「秘密・・・ですもの。」
答えるはクスクスと楽しげに笑う。
「まったく、そんなもんどこで覚えてくるんだよ・・・っていうか、屯所でよく異国の歌なんて歌うよな。」
打ち滅ぼす敵であるはずの、異国の言葉を紡ぐに呆れたように原田は言い
「なぁ・・・お前に、怖いものは無いのか?」
何とはなしに、心に思い浮かんだ疑問を口にする。
「怖い・・・とは思いませんわ・・・もう何も。」
口元に笑みの形を作り、は歌うように告げ
「原田さんの腕の中で、今・・・この瞬間に、世界が終ってしまってもかまわないと・・・そう思いましたもの。」
長い夜の間・・・心に浮かんだ感情に・・・切なげには微笑んだ。
「以前は・・・大切な、失くしたくないものばかりで、怖くないものの方が少なかったのに・・・不思議なものですわね。」
かつて炎を宿したの瞳は・・・もう暗闇しか映さない。
砕けた恋心は、優しい腕に集められ・・・閉じ込められた。
薄く微笑むの頭を振り向かせ、原田が後ろから唇を寄せる。
静かな接吻がゆっくりと離れていき
「・・・俺は、怖いものなんて何も無かったのに・・・一つだけ、できちまったな。」
少しだけ苦しそうに・・・原田は顔を顰めると、今だけ手に入れた愛しいものが消えてしまわないように、抱き竦める腕に力を込めた。
「原田さん・・・・・」
「ん?・・・何だ、」
「私がこの歌を歌うのは・・・原田さんの前でだけですわ・・・それを、忘れないで下さいね。」
「ああ・・・わかった。・・・・・・お前も俺を忘れるな。」
いつの日か・・・手放す・・・恋ならば・・・・・・
心に深く消えない痕を残したいと原田は願い、
言葉にできない想いを・・・は歌う。
【終】
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コレは実は書いたのは結構前なのですが、表に出してなかったので
思い切ってアップしてみました。
原田さんとうちのヒロインは終始こんな雰囲気です。
2007.11.10 紅月レン
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