『月が巡る』
昼間の日差しがある間でさえ肌寒いこの季節。
澄んだ夜空に月が輝く頃には、屯所を吹き抜ける風が手足の先から体温を奪っていく寒さへと変貌する。
人がいれば暖かい気がするのだろうか、屯所の談話室には夜も深けたというのに何人もの隊士が集い、
毎日顔を合わせる面子で飽きもせず会話に花を咲かせていた。
その一角に、一際華やかな集団がある。
剣の精鋭を集めた一番隊。
その中心でクスクスと楽しげに笑みを零しているのは、一番隊唯一の女隊士、だ。
沖田が局長に呼ばれ部屋へと上がっている間に、平隊士たちは、我先にへと話しかけていた。
夜の巡察を終え、十番隊を引き連れて屯所に戻った原田は、自室へ戻ろうと談話室の脇を通り過ぎるが、
中から聞こえる笑い声に、ふと部屋の中を見遣る。
その瞬間。
ゆっくりと・・・誰にも気づかれないように、視線だけを原田に合わせ、が柔らかく微笑んだ。
声を掛けるわけでもなく・・・約束があるわけでもない。
ただ視線を合わせるだけ、それが繰り返される逢瀬の合図となる。
隊務で付いた血と汗の匂いを落とすため風呂に入り、髪を乾かした原田は、の待つ部屋へと向かう。
誰にも言えないこの関係が、万が一にも露見してしまわないように・・・細心の注意を払って。
「・・・」
声を掛け障子を開けると、部屋の中央に敷かれた布団の上に膝を崩して座った姿勢で、は寝息を立てていた。
原田の声にも気配にも反応しない。
(まいったな・・・寝ちまってる)
声を掛け、起こせばコトに及べるだろうが、疲れているならに無理をさせたくはない。
昼間は一番隊も巡察があったし、夕刻には稽古もしていただろう。
男でさえ泣きを入れるくらい厳しい沖田の荒稽古にずっと付き合っていれば、疲れも溜まっているのだろうと原田は判断する。
布団の上掛けをめくり、を起こさないよう慎重に、腕に抱え上げ、静かに横たえる。外気が肌寒いせいか、
眠っているの手足は少しだけ冷たくなっていた。
「・・・左之助さん?」
布団を掛けようと手を伸ばしたところで、腕の中のが口を開く。
「何をされていますの?」
「このまま寝かせてやろうかと思って。」
原田が答えると、不服そうには原田を睨む真似をして唇を尖らせるが、
それに・・・と、原田は続ける。
「おまえ・・・隊務と稽古で疲れてんじゃねぇのか。具合悪いなら無理にしなくもて良いんだぜ?」
「別に疲れてなんていませんわ。隊務も稽古も通常通りこなしただけですもの。
さっき寝ていたのだって・・・左之助さんがいらっしゃるのが遅いからですわ。」
「それは、風呂に入ってきたからだ。仕方ねぇだろ?さっき談話室で会った時は、巡察から戻ったばっかだったしよ。」
少しだけ困ったように、原田は苦笑いを浮かべた。
風呂に入り、髪を乾かしていたら、結構な時間になってしまったのだ。
普段は髪のことなんか気にしないが、とする前だけは、きちんと乾かすように、原田はしている。
濡れた髪のままコトに及ぶと、最中に原田へと腕を伸ばすの指先が冷えてしまうからである。
「そうですけれど・・・待っておりましたのに。」
呟いて、はプイと目を逸らした。
眠くても、それでも待っていたのだ・・・と、目元を赤くさせたは言う。
「・・・俺が、悪かった。」
赤くなるを見て、原田は笑みを浮かべる。
「・・・逢いたかったぜ。」
その言葉に、は嬉しそうに原田へと向き直り、両腕を原田の首の後ろに回す。
「・・・私も、左之助さんに逢いたかったですわ・・・・・・」
呟いた唇が、原田の唇に深く咬み合わされた。
天に月が輝き、他の誰も起きていない深夜には、限られた四角い部屋の中だけ、秘密の逢瀬の空間となる。
原田と二人だけで夜を過ごすとき、は驚くほど奔放だった。
ためらいもなく、一途に原田を求めてくる。
そして原田も、仲間と共に歩み続けると誓った志と同じ強さで、へと想いを向けている。
素直で、ひたむきで、時に炎のように激しい情熱を・・・
「・・・どうかされました?」
布団へ横たわり自分の上に身体を重ねてきた原田が、何か言いたげな目をしていることに気づいて、は尋ねた。
「・・・やっぱり、どこか具合が悪いんじゃねぇか?気のせいかと思ったけど、普段より身体が冷えてねぇか。」
素肌を重ねて、体温を確かめると原田は言う。
「そうですか?別にどこも悪くはありませんけれど?」
「それならかまわねぇけどよ。もし具合が悪いなら無理はすんなよ。おまえは俺の知らないところで無茶するからな。」
原田は、の腰に腕を回し抱き締めた。
この細い腰の脇には・・・普段は緋色の刀が携えられている。
新選組で生きていく以上戦闘は避けられない。
しかも、が所属するのは剣の精鋭が集まる一番隊だ。
沖田の傍らで剣を振り続けるその姿にいくばくかの不安と・・・嫉妬を抱かないわけじゃない。
せめて十番隊に所属されていれば・・・と思った事もあるけれど、剣の道で生きていくと決めたのはだから・・・
志を否定することはできなかった。
ただ、離れている間に怪我を負うことがないように・・・と、原田はソレだけを願っている。
「・・・その台詞、そっくりそのままお返ししますわ。左之助さんだって・・・無茶しっぱなしではありませんか。」
十番隊の隊長として、新選組の幹部とし先陣切って戦いに赴くのは仕方の無い事。
それがわかっているからあまり口には出さないが、本当はだって、いつでも原田の事を気にしている。
「俺のはしょうがねぇ。それに多少怪我したって良いんだよ、男だからな。でもおまえは・・・とにかく、俺のいないとこでは無茶するな。」
ぐっ・・・とを抱きしめる腕に力が篭もった。
「えぇ。わかっておりますわ。」
原田の言葉に少しだけ苦笑いを浮かべるが、安心させる為には言う。
心の奥に巣食う不安は隠したままで・・・・・・
彷徨うように、お互いの肌を弄る指先・・・
初めのうち、相手の動きにを真似るように、原田の肌を辿っているの指は、やがて、与えられる感覚の高まりについていけなくなる。
「ん、んっ・・・」
腕を投げ出してしまったを、更に愛撫するように、原田の左手はの胸の覆い先端を爪の先で擦り、
右手の中指はクチュクチュと秘所を攻め立てる。
容赦の無い、指と掌の動きに刺激され、うろたえたようにはかぶりを振り、身を捩った。
自分だけが高められるのではなく、二人で気持ち良くなりたいのだ・・・とは思うのだが、結局いつも原田に翻弄されてしまう。
「ぁん・・・はっ・・・」
肩を喘がせながら、は原田の背中に腕を回す。
すがり付いてくる熱い身体は、先ほどまで感じでいた冷たさが消え、熱さを孕んでいる。
原田は、宥めるように、の額へと唇を落とす。
頬へ・・・唇へ・・・目元へ。
そして、その目元から伝う涙の跡を辿って首筋へと移り・・・項を咬むと、原田の指に内壁が吸い付くように蠢き、の身体がビクリと震えた。
「あっ・・・左之助さんっ・・・・・・」
溶け落ちていこうとする身体と掠れた声。
すすり泣くように掠れていく声が、更に甘く響く。
炎を集めたように輝く瞳から、一筋の雫が零れ落ち、濡れた瞳が原田を見上げている。
ふいに・・・ゾクリ・・・と、何かが身体を巡った。
優しくしたい、大切にしたい、愛しい気持ちと・・・
奪い尽くしたい、欲望と衝撃。
凶暴な想いに流されないよう、を確かめるよう、その体中に口付けを落とす。
「左之助さん・・・・・・もぅ・・・」
焦れたようにが、身体をもがかせるが、性急にコトを進めると、の身体にかかる負担が増大する事を知っている原田は、
の意思には反して、ゆっくりと、じっくりとその身体を溶かしにかかる。
一旦指を引き抜くと両脚を開かせ、原田以外の誰も触れた事のないその奥へ唇を寄せ、舌を這わせる。
何度も身体を重ねているのに、その瞬間は緊張するのか・・・それとも、恥ずかしいのか、一瞬は身体を硬くするが、
舌先で何度も押し開き、奥まで細やかな愛撫を施すと、クチュリと音を立て、小さく喘ぎだす。
差し入れられる濡れた感触と、器用に蠢く舌先に、大理石のように白い肌は薄紅色に変わり、細い腰は、くねるように動き、
の唇からは、ひっきりなしに甘い声が漏れ出していた。
「ふ・・・あっ・・・」
そうして、更に奥へ奥へと導くように、吸い付くような動きを繰り返すソコに、原田は中指を当てた。
ツプリ、と音を立て、けれども、舌先で解かされたソコは難なく原田の指を飲み込んでいく。
舌よりも奥まできた刺激にの身体は震えた。
一本、二本と指は増やされ、執拗にその場所を解す。
そうして、の求める声が嗚咽に変わる寸前まで・・・何度も、何度も、優しく・・・切りもなく続けられた。
が、身体を繋げることで感じる苦痛が、少しでも減るように・・・と。
ようやく、原田が身体をずらすと、息のあがったは、それでも原田がコトを進めやすいようにと、原田の身体を挟み込み、
ぎりぎりまで脚を広げた。
ペニスを押し当て、ゆっくりと挿入する。
ツプリと音がして、のソコは原田を飲み込んでいった。
「ん・・・・・・あ・・・・・ぁ・・・・・」
一番太いカリの部分が過ぎてしまえば、あとはスムーズに挿入できるはずだが、原田は焦らすようにゆっくりと腰を進めていく。
限界まで広げられたの秘所は、少しの隙間も無いほどピッタリと原田のペニスに吸い付き、更に奥はキュウキュウと伸縮を繰り返している。
「ほら、見ろよ。根元まで入ってるぜ。」
原田はとの結合部分をジッと見て、原田の熱を根元まで銜えこんだ入り口のふちの、少し捲れあがった部分を、
スルスルと撫でるとニヤリと笑った。
「いやらしい・・・顔ですわっ・・・・・・」
濡れた目で見上げるが、原田に向かって言う。
を組み敷き縫い止める原田は、銀色の獣が獲物を捕らえた姿を連想させる。
「おまえもな。」
原田の肉棒を根元まで銜え、震えながらも、その先の行為を期待するかのように誘う、の仕草も、原田からすれば、壮絶にいやらしかった。
「動くぞ」
その声を合図に、原田はいったん腰を引くと、一気にのナカを突き上げた。
「ひ・・・っ・・・・・・・・!」
が喉を鳴らした。
ずっ、くちゅ、じゅぶ、ぬちっ、ぐちゅ、ずるっ、ぐぷっ。
部屋に肉の擦れ合う音が響き、ペニスを突き立てられるのと同じリズムで、の喘ぎ声が響く。
「ん・・あっ・・いっ・・んぅ・・あっ・・左之助・・さんっ・・・」
激しく抜き差しする動きに耐え切れず、は原田の背中にしがみ付いた。
次第に激しくなる動作が、浮かされたような熱さへと二人を追い込んでいく。
痛みではない衝撃・・・意識を奪われそうな程の強い悦楽に流されまいとは原田を見上げ、薄く開いた口元に舌先をひらめかせた。
の意思に応え、原田は、身体を繋げた体勢のまま、に口付け、舌を絡ませた。
求める想いそのままの接吻は、もどかしいように、いっそう深くなっていく。
身体の深い部分で繋がりながらも、それだけでは足りない想いを満たしたくて・・・二人は、唇を咬み合い、舌を絡めあって、
激しく互いを貪り続けた。
熱に浮かされたように、腰の動きが速くなっていく。
絶頂が近い。
「このまま、ナカに出すからな。」
掠れ、普段よりも低くなった甘い声で、原田はに向かって言った。
が、かろうじて首を縦に振ったのを確認すると、原田は一際強く、深く、のナカへとペニスを突きたてた。
「あぁっ・・・・・・・・・・・・!」
「くっ・・・」
細く高く掠れた声を上げ、が果てるのと同時に、原田ものナカへと射精した。
の内壁に叩きつけられた熱い液体が、最奥に到達し、ヒクヒクと蠢くソコからコポリと溢れだした。
しなり返るように緊張していた身体が、やがて力を失って、原田の背に縋り付いていたの両腕がパタリと布団へと落ちる。
なおも、身体の内側で渦巻く悦楽の余韻には背を波打たせていた。
そして、そんなを宥めるように原田は、その背を何度も撫で・・・呼吸が落ち着くと、額へと触れるだけの接吻を落とす。
「・・・おまえを・・・愛してるぜ・・・・・・」
耳元で小さく囁かれた声に、が切なげに微笑んだ。
「私も・・・左之助さんを・・・愛しておりますわ・・・・・・」
離れ難い想いとは裏腹に、原田が空が白むまでこの部屋に留まる事は無い。
・・・部屋から出て行く所を、他の隊士に見られる訳にはいかないからだ。
二人の関係が周囲に知れれば、引き裂かれてしまうかもしれないから・・・・・・
微笑むの瞳の奥に映る不安を消し去りたくて、原田はを抱きすくめる腕に力を込める。
「俺は、何があってもおまえを手離さねぇし、この時間を終らせるつもりもねぇからよ・・・」
「・・・終らせないとおっしゃる・・・その言葉が本当でしたら・・・あの月に誓って下さいませんか?」
スッと原田から視線を外すと、は障子越しに映る月明かりを見遣り、その向こうに存在する月を思う。
「終らない約束を・・・何度でも巡る月に。」
「・・・わかった。あの月に誓っておまえとの時間を終わらせねぇことを誓うぜ・・・終わらない約束、だな?」
の視線を追うように原田も月明かりの射す方を見遣り、ニヤリと口元に笑み形を作った。
「ええ。終らせない約束ですわ。それから・・・」
ゆっくりと原田へ視線を戻すと、は床に散らばる着物へと手を伸ばす。
広がる布の塊の中から緋色の襦袢を引き寄せると、端に歯を立てビリッと引き裂いた。
その切れ端を、きゅっと原田の小指へ括りつける。
「私は・・・コレに。他の誰のものにもならないと・・・左之助さんの小指に誓いますわ。」
二人の小指が赤い糸で繋がれていないのならば・・・せめて、少しでも長く傍にいれるように・・・と、紅い紐に想いを込めて。
「ああ、わかった。それは俺も一緒だぜ・・・?だから絶対忘れねぇよ。またこうしておまえに逢いに来るからよ。」
の目の前に掲げられた小指の根元で、紅い紐がヒラリ・・・と揺れた。
いつか終りがくるとしても・・・今はただ・・・優しい約束を。
何度でも巡る月と・・・愛しいひとの指に・・・誓う。
【終】
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姿絵に時々出てきていた紅い紐の正体はコレでした(笑)
このお話も実は結構前に書いたものですが
そろそろ表に出しても良いかな〜と思ったので。
そして何気に、自分で書いた初艶話だったりします(笑)
2007.11.13 紅月レン
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