『星に願いを』
冴え凍る大氣は、空をとても近くに感じさせる。
見上げた空に手を伸ばせば、星にさえ手が届いてしまいそうな、そんな夜。
「あ〜今夜は久々に美味い酒を呑んだなぁ〜」
頬を上気させ、上機嫌で金色の髪を揺らすのは、泣く子も黙る新選組と言わしめた狼の群れを率いる
(とは思えない程だらしなく目尻を下げ、しかも上機嫌なこの男)近藤勇。
「そりゃあんたは美味いだろうさ!ずーっとの酌で呑んでたんだからな。
・・・オレだって、に注いで欲しかったのに。独り占めは酷いぜ、近藤さん。
お陰でいまいち酔えねぇし、しかも寒ぃ。」
ぶるりと身体を震わせると若干拗ねた様子で、小声で一人愚痴を零すのは、色黒の大男、
原田左之助。
「寒いなら、ちょっと刀でも振りましょうよ。身体も温まりますし、お酒で惚けた頭も冴えてきますよ。」
ニコニコを笑みを浮かべながら、何気に酷い事を言うのは、剣の天才、沖田総司。
「剣のお相手なら、私が致しましょうか?今夜はあまり飲んでおりませんから、
酔っ払いの方よりも楽しい稽古ができると思いますわ。」
柔らかく微笑みながら、腰の刀に手を掛けて沖田へと近づくのは、一番隊に所属する女隊士、
。
「そうですね、じゃぁ、ちょっとだけ遊びましょうか。」
嬉しそうに微笑み返し沖田が刀に手を掛けるが、
「駄目駄目。君達二人が稽古なんか始めたら、ちょっとじゃすまないだろ。」
今夜はもう遅いし、屯所に帰る途中なんだから駄目だよ〜と、近藤は二人を制止した。
特に何かがあったわけではない。
けれども珍しくこの四人だけで酒を呑みに出掛け、気づけば外を歩く人影も無く、
佇む家屋も静まり返るような刻限となっていた。
「そう言えば、才谷さんに聞いたんですけど。異国では師走は木に飾りをして、
願い事をする慣わしがあるそうですよ。」
「木に飾りと願い事ですの?まるで七夕みたいですわね。」
振り返り唐突に話し始めた沖田に、木に願い事を書いた短冊を飾る七夕を思い浮かべたが
答えた。
「あ、でも、七夕と違って願い事は、具体的に欲しい物をお願いするそうですけど。」
欲しい物をを紙に書いて足袋に入れておくと、翌朝それが貰えるんだったかな?と、
才谷に言われた話を、沖田は首を傾げながら思い出そうとする。
「じゃぁ俺は、新しい刀が欲しいなぁ・・・って書いてトシの足袋に入れておいてよ。原田くん。」
「あ?何で俺が!」
「だって俺がやったら怒られるだろ〜?だから原田くんが代わりにって事で。」
「怒られる事に変わりねーじゃねぇか。近藤さん、俺に何か恨みでもあんのかよ。」
近藤と原田の会話に、沖田とは視線を合わせ、クスクスと笑みを零す。
「で、さんは、欲しい物とか無いんですか?」
の瞳を覗き込むように沖田が問いかけた。
「物と言われると・・・直ぐには思いつきませんわ。叶うと良いと思う願いなら、ありますけれど。」
「さんは欲がないんですね。でも願い事を叶えて欲しいなら、やっぱり星・・・になるのかなぁ。
ほら、今夜は空気も澄んで、星が沢山見えますよ。」
沖田が指示す先に、視線を延ばすと、高く広がる空を覆わんばかりに星が煌いている。
「・・・すごい・・・・・・綺麗ですわ。」
その輝きに圧倒されるように呟くの言葉に引き寄せられるように、近藤と原田も
夜空へ視線を向ける。
しばし、言葉を紡ぐ事を忘れ四人で星を見上げていた。
ふと、その瞬間・・・
夜空を、光の筋が流れていく。
(流れ星・・・)
「日頃の行いが良いせいかな、丁度流れましたね。星に、願い事ができたんじゃないですか?」
「・・・ええ。」
「何を、願ったんですか?」
に尋ねる沖田の顔は、とても優しい表情をしている。
「願い事は・・・」
「・・・・・・」
「原田さんの女癖の悪さが直りますように。と願いましたわ。」
一瞬躊躇したその後に、ニッコリと笑みを浮かべては答えた。
想像しなかったの言葉に、沖田はキョトンと目を丸くする。
「おいっ!!俺がいつ女癖が悪くなったんだっ!」
「あら?私が存じてないと、お思いですか?原田さんが永倉さんとご一緒に、
遊郭へ通われておりますのを。」
口元に笑みを浮かべているのに、の目は笑っていない。
(こ・・・怖い・・・)
と思ったのは、原田と近藤の心の声だが。
「そ、そ、そ、それはっ。新八に誘われて、断れなくてだなっ・・・」
視線を彷徨わせ、冷や汗を流しながら弁明する原田の姿に、
「原田さんは酷い人だなぁ。」
沖田がふぅと溜息をつく。
「俺は酷くネェ!近藤さんじゃあるめぇし。」
「いや、その言い方は酷いね。俺は女癖は悪くないよ〜原田くん。俺は、俺の愛する女性全てを
大切にしているからね。原田君は愛が足りないから、そんな事を言われるのさ。」
冷かされながらも困ったように苦笑いを浮かべる原田と、やり取りを見て笑う沖田。
その三人を見ては小さく微笑みを零す。
言葉にすれば消えてしまいそうで、沖田に本当の事は言えなかったけれど・・・
流れる星に、は思わず願ってしまった事がある。
星に願う。
決して叶わない願いだと、わかっているからこそ、星に願う。
ひっそりと、心の奥で・・・
『どうか、皆で過ごす、この優しい時間が、この先もずっと続きますように。』
と。
の願いを、星まで届けるように。
四人の笑い声が、夜空へと吸い込まれていった。
【終】
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と、言うわけで。珍しくほのぼのな雰囲気のお話になりました(笑)
流れ星に願い事をすると叶うというのは、とてもロマンチックだと思うんですが
誰が最初に言い出したんでしょうね?(笑)
その発想の根拠が、気になるところです(笑)
2007.11.16 紅月レン
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