『月と太陽』
麗らかな午後の日差しの中、茶屋の紅い傘の下で、は陸奥と隣り合って
甘味を口に運んでいる。
「新選組の巡察の予定は極秘事項ですのに、どうして陸奥さんには私の非番の日を
ご存知なのかしら。」
「それは、然るべきところから情報を入手しているからさ。」
「花柳館の方々も困ったものですわね。」
にも心当たりがあるのか、苦笑いを浮かべるが、陸奥は
「そもそも情報とはその信憑性が・・・」と情報の重要さについて語り始めてしまった。
陸奥の話に相槌を打ち、時々クスクスとは微笑みを零す。
楽しげな陸奥の様子に、は懐かしさを感じていた。
共に過ごしたほんの数日の間、こんな風に陸奥の話を、は飽きることなく聞いていた。
そんなに昔の事ではないはずなのに、酷く遠い日の事のような気がするのは、
今の自分ではない、記憶を失くしていたという非日常的な状況下だったせいだろうか。
「おっと、少し話しは逸れたが、何でそこまでして正確な情報が欲しかったのかと言うと、
ただ、あんたに逢いたかったからさ。」
逢う度に繰り替えられるその言葉。陸奥の瞳が真剣な色に変わる。
「新選組を見限って、俺のところに来る決心はついたか?」
「そのような話はしておりませんわよ?」
困った方ですわね、と小さく呟くを、じっと見つめたまま陸奥の視線は外れない。
その視線から逃げるように、は空を見上げ、降り注ぐ太陽の光りに、
眩しそうに目を細めた。
「陸奥さんは太陽のような方だと思いますわ。でも、太陽を見れば目が潰れ、
触れれば肌を焼かれます。月は太陽と共には在る事はできませんもの・・・
私は、陸奥さんと一緒に居る事はできませんわ。」
「そんなことない。真昼にだって月は空にあるさ。白く淡い真昼の月だって、
俺は綺麗だと思う。だから、一緒に居れないなんて、言わないでくれ。」
思ってもみなかった陸奥の言葉に、は驚いた表情をする。
「それに、知っているか。月の光は太陽の明かりを映してるんだぜ?
アンタが月で、俺が太陽だと言うのなら、アンタを輝かせるのは俺だけだ。
だったら、俺たちは一緒に居るべきだと思わないか?」
強い言葉・・・強い瞳。
太陽のように世を照らす、意志の強いひと。
「論争では陸奥さんに敵いませんわね」
降参にしたように苦笑いを浮かべるに、
「ああそうさ。だから諦めて、俺のものになったら良いさ。」
太陽のような万遍な微笑みで、陸奥は笑い掛けた。
【 月と太陽 終 】
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同人誌『永遠の約束』より転載しました。
陸奥さんがお相手のお話、『永遠の約束』〜『薔薇に眠る』の間のお話です。
2011.03.27 紅月レン
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