『咎人』
才谷梅太郎こと、坂本竜馬が暗殺された報は、瞬く間に新選組内に伝達された。
才谷を救うべく新選組が奔走したにも係わらず、何者かの手により暗殺は遂行され、
しかも間の悪い事に、近江屋へと向かった隊士が御陵衛士と遭遇したことにより、
きっと明日には坂本竜馬暗殺の犯人は新撰組の人間だと広まってしまっているだろう事が
予想される。
才谷と懇意にしていた者は酷く心を痛めている。
けれどもまだ悲しみに暮れる余裕はなく、事態収拾とその対策の為、
幹部を中心に新選組屯所内は騒然としていた。
新選組の者が才谷を殺す訳が無い。実際、手出し無用との命もでていたくらいだ。
でも、世間はそう思ってはくれず、現場で犯人扱いされた原田激昂ぶりはすさまじかったらしい。
見回り組みも暗殺を企てていたふしがあるが、見回り組み程度の剣の腕で、
才谷を暗殺できるだろうか?
などと、は思いを巡らせながら廊下を歩いていると、闇に溶ける黒い影と擦れ違う。
口元に携えられた微笑。
擦れ違いざまに一瞬交わされた視線。
その目の奥に広がる喜悦の色。
全身に広がる返り血の・・・才谷の血の臭い。
「まさか・・・大石さんですの!」
目を見開き、思わず零したの呟きに、黒い影が振り返った。
「へぇ。あんたにわかるんだ?一応近藤さんには違いますよ、って報告したんだけどねぇ。
ふーん。やっぱり同類だからかな?」
稀に見る程上機嫌な様子の大石は、欲しいものを手に入れて嬉しくて仕方がない子供のような
笑みを浮かべている。
「報告する?俺は別に構わないけど、そうだと困る人は沢山いるよねぇ。
どうするんですか、さん。」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて問いかける大石を、は鋭い視線で睨み付けた。
「何をおっしゃっているのか、わかりませんわ。」
一瞬考えを巡らせると、震える手を強く握り締めは答えた。
「ああ。それは懸命な判断だと思いますよ。くくっ、じゃぁ俺は失礼します。」
去っていく大石の背を睨むように、したままは唇を噛み締めその場に佇んでいる。
別に、大石の身を案じたわけではない。
ただ・・・新選組の者が坂本竜馬暗殺の犯人であってはならない。
其れを最優先としたのだ。
知ってしまった事実を、誰にも言うことはできない。
犯人扱いをされている、原田の汚名をすすぐ事も。
陸奥に才谷の仇を教えてやることも。
してやることはできない。
何よりも、新選組の事を一番に考えてしまったから・・・
知っていて口を閉ざす・・・それは、共犯者のようなもの。
この夜、は罪を犯す。
大切な何かを守るために、他の大切なものを傷つけてしまう罪を。
【 咎人 終 】
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同人誌『永遠の約束』より転載しました。
陸奥さんがお相手のお話、『永遠の約束』〜『薔薇に眠る』の間のお話です。
2011.03.27 紅月レン
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