『この声が涸れる程に』

それは・・・贖罪の夜の出来事。



才谷が暗殺されてしまったのだとの報を聞いて、最初に浮かんだのは、ある人物の事。

どうか現われないで欲しい・・・と祈るような気持ちで願ったのに・・・

気配を感じ、部屋の外へとは出ていく。
見れば、才谷にすがりついたのだろうか、着物に血を付けたまま陸奥が佇んでいた。

「陸奥さん・・・」
「・・・。才谷さんが死んだ。」
「存じて・・・おりますわ。」
「新選組の奴が、殺ったんだ・・・」

手に持っていた才谷の銃をゆっくりと持上げ、へと陸奥は銃口を向ける。

「新選組が憎いですか」
「ああ・・・」
「私が・・憎いですか?」
「・・・」

陸奥が向けた銃を手に取り、は己の胸へと当てた。

「これで、陸奥さんの気が済むのでしたら、このまま引き金を引けばよろしいですわ。」

才谷の形見となってしまったこの銃で。

「才谷さんを手にかけた、新選組の奴らは許せない・・・
 才谷さんは、この国の未来を創る人だ。これからの日本に必要な人だったのに何で!
 国を追われ、世の中を憎んでいた俺に、志を教えてくれた。
 才谷さんだけが俺に気づいて、俺の言葉に耳を傾けてくれて・・・
 俺にとってたった一つの光だったのに!!!」

止まらない、叫びのような言葉が、陸奥の口から溢れだす。

「新選組の奴らが憎い。・・・皆殺しにしてやりたいくらいに。」

カチャリと、激鉄が起こされた音がして、引き金に指が添えられる。

「でも・・・」

小さく絞り出すような声が喉の奥から漏れ・・・

震える陸奥の指先から銃が零れ落ちた。

「でも。それでも・・・。アンタの事は、好きなんだ!!!」


「あいつら全員殺しても、殺し足りないくらい憎いのに・・・
 それでもやっぱり、アンタの事が好きなんだ!!!」

・・・苦しい・・・・・・俺を・・・助けて・・・くれ・・・」

縋り付き、泣き崩れる陸奥をは優しく抱き留める。
そして、空を切り裂くような悲鳴を閉じ込めるように、陸奥の唇を己の其れで 塞いでいった・・・





◆ ◆ ◆


ふと、陸奥が目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。
そして素肌に直に触れる、柔らかい布団の感触。

「ここは・・・どこだ?・・・頭イテェ・・・」

額に手を当てながら身体を起こすと、陸奥はフルフルと頭を振った。
揺れる髪の先から、甘い移り香が香る。

「マジで此処どこだよ。」

呟きながら、瞬きをすると瞼が腫れていて、少しだけ目元が傷んだ。
その、痛みに、唐突に昨夜の出来事が陸奥の頭に甦る。

暗殺された才谷さん。
気が狂いそうな程の憎しみと、悲しみ。

今も・・・悲しみはある。でも不思議な事に、憎しみは心から消え去っていた。
変わりに心に残るのは・・・優しさに包まれた記憶。

切なさと、愛おしさと・・・自分の名を呼び続ける甘い声と・・・・・・


フワリと、甘い香りが揺れた方へ目を向けると、が部屋へと入ってくるところだった。

「陸奥さん、目を覚まされましたのね」

の手には、血を落とし乾かして、綺麗に畳まれた陸奥の着物があった。

「朝餉でも用意したいところなのですけれど、あまりゆっくりしていて他の隊士に見つかっては 困りますでしょう?昨夜の騒動のせいで、皆まだ寝静まっておりますから、 今の内にお帰りになって下さいませ。」

の言葉に、俺は別に困らない、と陸奥は言いかけて止めた。
きっとは困るのだ。

それに・・・

「昨夜のはフェアじゃない気もするしな」
小さく呟いた。

渡された着物に素早く袖を通すと、身支度を調えた陸奥は、足早にの部屋を後にする。


◆ ◆ ◆


才谷さんが殺された・・・この夜は、悲しみと甘い記憶と・・・ ほんの少しの切なさを胸に残した。

この先、何度思い出してもきっと忘れられない。

大切な人を亡くした深い悲しみは、愛しいひとに触れた優しい記憶と共に在る。

才谷さんに話したら怒られるだろうか・・・と一瞬考えたが、 そんな事ないだろうと陸奥は口元に笑みを浮かべた。

才谷さんだったらきっと、

「よくやった陽之助。人は恋してなんぼぜよ。惚れた女に触れられるのは幸せな事じゃろ? ワシのお陰ぜよ。感謝しとおせ。・・・何にせよ、おまんが幸せそうで何よりじゃ」

とでも言って、笑って許してくれるだろう。


そう考えて、目の奥に熱いものが滲んだけれど、溢れる前にゴシゴシと目元を拭う。
泣いている場合じゃない。
才谷さんが居なくても、俺は俺の志があるから。

、やっぱりお前は俺のファム・ファタルだぜ!」

白く明け始めた空に向い叫ぶと、陸奥は走り出した。



【 この声が涸れる程に 終 】



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同人誌『永遠の約束』より転載しました。
陸奥さんがお相手のお話、『永遠の約束』〜『薔薇に眠る』の間のお話です。

2011.03.27 紅月レン



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