『本当のこと』



真実が、いつも優しい訳ではない。



最初は、諍いにもならないような小さな事だった。
巡察ではなく、市中を散策していたと原田が、同じく市中に散策していた陸奥が、 偶然遭遇してしまった、それだけだった。

に声を掛けた陸奥と、牽制するように2人の間に入る原田。
当然のように2人並ぶ姿に、陸奥の胸はチクリと痛んだ。
そして言い争いがヒートアップしていく内に、陸奥の口から原田へと言葉が言い放たれたのだ。


“側に居るのが当然みたいな面しやがって・・・オマエだけが、の肌を知っていると思うなよ!!!”


と。



・・・本当の事を言ってくれ。アイツの言ってる事なんて嘘だろ? 俺はお前の言う事を信じるから。だから嘘だって・・・言ってくれよ。」

「・・・・・・嘘では・・・ありません。陸奥さんの言っている事は本当の事ですわ。」

俯き目を逸らせた、に原田は言葉を失くす。

「そんな・・・見損なったぜ。」

「左之助さん!」

踵を返し、その場から去ろうとする原田を、呼び止めるようにが原田の着物の袖を掴んだが、
パシッ

と、音を立てて、の手が払い落とされた。

「悪ぃ。でも、今は顔を見たくない。」

搾り出すように、苦しげに呟くと、原田はを振り返らずに屯所へと戻って行った。



原田が消えた道を、黙って見続けているに、陸奥が声を掛ける。

「オレは謝らないからな。嘘は言っていない。」

「ええ。陸奥さんは悪くはありませんもの。・・・私が悪いのですわ。」

陸奥を振り返ったは、何かを諦めたような表情で・・・淋しげに微笑んだ。

陸奥が言った、と肌を合わせた夜・・・それは、坂本龍馬暗殺の夜の出来事。
憎しみに染まる陸奥の心を、はどうしても放っておくことができなかった。
陸奥は正気ではなかったけれど、でも、に包まれた愛しい記憶は心の奥底に残っている。
暗く深く冷たい闇の底に沈む意識の奥で、ずっと響いていた自分を呼ぶ優しい声。
肌に触れた温もり。
それらは全て陸奥にとっては必要だった事。

けれど、にとっては贖罪の夜の記憶。

「アイツが、これでを見限ると言うのなら、今度こそオレのモノになればいい。 オレは、何があってもアンタを愛してる・・・この先もずっと、アンタだけを愛してるから。」


(卑怯者だと言われてもかまわない)

(オレは・・・アンタを手に入れるためならなんだってするさ)

頬に手を伸ばし、そのまま頭を引き寄せると、陸奥は肩口にの頭を埋めるように抱き寄せた。



【本当のこと 終】


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時系列では『この声が涸れる程に』の後のお話です。

2011.03.27 紅月レン




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