『雨に濡れて』



非番の日、呉服屋に新調した浴衣を受け取りに行ったは、その帰りに、 通り雨に遭遇してしまった。
普段なら気にしないが、腕に抱えた風呂敷包みに入っている浴衣を気遣い、 店の軒先で雨宿りをしている。
そこに、紅い番傘を差した陸奥が通りかかった。

に気づくと、陸奥は静かに近づき、へと傘を差し伸べる。
「屯所まで送ってやるよ。」
「どこかに行かれるところではありませんの?私は雨が上がるまで雨宿りでもしておりますから、 大丈夫ですわ。」
微笑みを浮かべながらは断るが、陸奥はふいと視線を背けて『駄目だ』と小さく呟いた。
「もうすぐ日も暮れる。雨だっていつ上がるかわからないだろう? ・・・心配だから送らせてくれないか。」

「でも・・・申し訳ありませんもの。暫く待って雨が上がらないようでしたら、 走って帰ります。」
断ろうとするを見遣ると、陸奥は腕の中に抱えられた風呂敷包みを指さした。
「其れは?」
「此れですか?」
腕に抱えた風呂敷包みを陸奥へ見せるように、少しだけ持上げる。
「浴衣を新調致しましたの。今日は天気が心配だったのですけれど・・・ 非番で時間が作れた時に受け取っておかないと、いつ受け取りに来れるかわかりませんから。」
は、苦笑いを浮かべた。
「だったら尚更、雨に濡れたら困るんだろう?ただ送って貰う事に気が咎めるなら ・・・そうだな、この礼に、今度新調した浴衣を着たところを見せてもらえないか?」
提案をしつつも強請るような陸奥の言葉に、は小さく微笑みを浮かべた。

「わかりました。では屯所まで送って頂く事に致します。 浴衣を見せるのは・・・機会ができたらでかまいませんの?」
の了承に、陸奥は嬉しそうに笑う。
「もちろんだ。いつでも、の都合の良いときで良いさ。 新調した浴衣か・・・楽しみだな。色、柄はどのようなものなんだ?」
「黒地に紅い薔薇ですわ。」
「それは、の為に設えたようなデザインじゃないか! きっと似合うだろうな。楽しみだ。」
「そう言って頂けると嬉しいですわね。」

の浴衣姿を想像し、嬉しそうに笑う陸奥に、も柔らかい微笑みを浮かべる。

陸奥が左手に持った番傘にも並んで入り、雨の中言葉を交わしながら、 屯所へと向かっていた。

その途中、ふとが何かに気づき、足を止める。
「どうかしたのか?」
「・・・陸奥さん、肩が濡れておりますわ。」
が視線を向けた先、陸奥の右肩が雨に濡れていた。
「オレの事は気にするな。が濡れなければそれでいい。」
「でも、陸奥さんの傘ですし、入れて頂いているのは私の方ですから。」
は傘の柄に手を伸ばし、自分よりに差されている傘を陸奥の方へと寄せようとした。
けれど、の手を陸奥は押し止める。
「・・・陸奥さん?」
「わかった。ではこうすれば良いんだな。」
そう呟くと、陸奥は左手に持っていた傘を右手に持ち替えると、 空いた左手での肩を引き寄せた。
陸奥の腕の中に納まるように、は抱き寄せられている。
「オレはが雨に濡れるのは嫌だ。でも、もオレが濡れるのは気が咎めると言うのなら、 こうするしかないだろう?」
視線を逸らせながら言う、陸奥の頬は薄っすらと紅い。

それから言葉を交わす事も無く、二人は屯所までの道のりを、ただ静かに歩き続けた。
吐息が胸元を掠める程、近い距離。

(抱き寄せた腕から・・・早鐘のような鼓動が伝わってしまいそうだな)

小さく陸奥は笑みを零した。

二人を包む雨は・・・まだ、止みそうにない。



【 雨に濡れて 終 】



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同人誌『永遠の約束』より転載しました。
陸奥さんがお相手のお話、『永遠の約束」』〜『薔薇に眠る』の間のお話です。

2011.03.27 紅月レン




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