『鬱雨前線』
虫の鳴き声が秋の物悲しさを一層引き立てる屯所の縁側には空になった徳利が転がっている。
柱に背を預け片足を立てて座っている男が一人。
猪口を持った片手をだらりと下ろし、ぼーっと月を見上げている。
その余りにも似合わないその光景に永倉は心配そうに隣に腰を下ろした。
「左之〜どォした?一人で酒なんか呑んじまってよォ」
「んぁ?」
気の抜けた返事が返って来たので永倉は益々首を傾げる。
「なんかあったのか?」
「別に……何もねーよ」
そう言うと思い出したように空になった徳利を振り、原田はチッと舌打ちした。
「でもよ、今日の左之はなんか変じゃねェか?」
「何時も通り何も変わんねぇって」
妙に心配した声の新八に原田は苦笑して見せる。
でもその声には張り合いが無い。
(別に今日の昼までは普通だったよなァ……)
永倉は困ったように顎髭をかくと、「ところでよォ」と話を変えた。
「明日ッからまた宴が始まんなァ。
今回もまた二人っきりになれる部屋が用意されるみてェだし、ここは一発盛り上げねェとな」
「参加したくねぇ」
原田が呟いた言葉に永倉は耳を疑った。
「左之、今なんつった?」
「だから……参加したくねぇって。やっぱ全員参加しねぇとまずいのか?」
「いや……別に強制じゃねェけどよ、オメーが呑みに参加しねェなんて熱でもあるんじゃねェか?」
いよいよ驚いた顔で原田の額に手を当てる。
特に熱があるわけではなさそうだ。
「だってよ……総司が居たらあいつはぜってーそっちに行くだろ?
総司だってあいつを側に置いて手放すはずがねぇし……」
がここに来た時からそれはわかっていたこと。
その想いが言葉に出されることは無くても、沖田はを側に置き、は沖田の傍らに立つ。
それを分かっていて原田はを好きになった。
はずだったのに……。
「そんな二人を見てたくねぇんだよ」
今までは自分の気持ちに気付かないフリも出来た。
笑って「頑張れよ」と声もかけることが出来た。
でも、一度生まれてしまった感情に気が付いてからは。
今までどんな風に笑ってたのかさえわからなくなっている。
永倉はそんな原田の様子を黙って見ていたが、やがて溜息のようにぽつりと呟いた。
「オメーらしくねェな」
「そうかもな」
原田が自嘲するように笑うと永倉は原田の腰に拳を入れた。
「いってぇなぁ!!何すんだよ!!」
「なァに総司に気ィ使ってやがんだよ」
「あん?」
「そんなのいつものオメーらしく、正直に突っ走っちまえばイイじゃねェか」
永倉の言葉に原田は苦笑する。
「あいつらの気持ちを無視して、か?」
「無視じゃねェッて。でもオメーだけが自分の気持ち殺しゃいいってモンでもねェ」
「…………」
「オメーが何もしなきゃ、この先ずっとこのままだぜ?それでもいいのかよ」
「いや……」
原田が考え込むように視線を落とすと永倉はいつもの陽気な表情で原田の肩に腕をかけた。
「左之はいっつも後先考えずに突っ込むくせにこォいう時だけマジに考えすぎなんだよ。
オメーが動くのを案外待ってっかもしんねェぜ。ま、頑張れや」
肩をぽんぽん、と叩くと永倉は自室に向かって歩き出した。
原田はふっと笑みを浮かべそれを見送ると、聞こえるかどうかの小さい声で「ありがとな、新八」と呟いた。
それへの答えかのように永倉は後ろ手でひらひらと手を振った。
翌日……宴の真っ只中。
強引にの腕を引き外へと連れ出す原田の姿が目に入る。
「あいつは加減ッつうモンを知らねェからなァ」
苦笑し、独り言のように呟く永倉の目に映ったのは
迷いのない瞳を持った原田と戸惑いの中に嬉しそうな微笑みを浮かべるの姿。
「ま、落ち込んだ左之なんて見てても面白くねェもんな。さーて……俺は総司の相手でもしてやっかァ」
呆然と二人を見送ったままの沖田を見て、永倉はやれやれと立ち上がる。
「まったく世話がやけるヤツ等だぜ……」
【終】
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諷凛花散 / 銀木星さまより頂きましたv
ヒロイン←原田さん設定で・・・しかも、明日10月31日〜11月2日に
「恋華喫茶」さまで行われる宴を題材にして書いて下さったお話です!!!
もうもうもう・・・ありがとうございます(涙)
原田さんの想いに胸が苦しくなってしまいましたよ!
「きゅぅぅぅんっ」ってvvv
片思いだと思ってる原田さんが切なくて・・・
どうして良いかわかりません(笑)
銀さん、素敵な原田さんを本当にありがとうございまいました!
(力いっぱい)大好きですっ!!!
2006.10.30 紅月 レン
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