【緋色の月】
『糸し、糸しと言う心 全て集まれば戀となる』
心が求めるのは
ただ一人の想う心
――夜番――
暗闇の中僅かな月明かりと堤燈の明かり、そして斬り合う相手の殺気だけが
相手を見極める術となる。
ある夜番の隊務の日、沖田はいつもの様に一番隊の隊士を二人から三人の組に分け
巡察をこなしていた。沖田がいつも組むのは、一番隊唯一の女性隊士である
『』だった。
蒼銀の髪をした沖田とは対極に、紅梅色の長い髪と同じ緋色の瞳をした姿
しかし、一番隊に所属している沖田を除く他の隊士に勝るとも劣らない剣技を持った
沖田のお気に入りの隊士だった。
「新選組だな!?」
「その姿はっ沖田総司か!?」
闇の中から放たれる殺気と低い声、歓迎されているとは到底思えない雰囲気に
には緊張が走り、沖田には楽しみが来たと言うような喜びが浮ぶ
まるで遊び道具を見つけた子供のような瞳の輝きと、無邪気な笑みを口元に
浮かべると、風のような速さで不逞浪士を斬り捨てて行く
沖田の剣は素早く正確に相手へと向かって突き出される。
瞬きをする間と言う言葉が本当によく似合うと、は沖田の剣技に見惚れていた
「余所見たぁ余裕じゃねぇか!!」
「女の癖に生意気なっ!」
「……そのお言葉、改めて頂きますわ」
沖田ばかりを気にするに、怒りを感じた浪士達が二人掛りで
に斬りかかって行ったが、まるで紅の華が舞うかのように返り討ちとして
斬り捨てられていく
そんなの姿を、今度は沖田が微笑を浮かべ眺めていた。
「相変わらず、二人して返り血塗れですね」
「仕方ありませんわ、何しろ狙われる回数が違いますもの」
にこにこと笑みを見せそう言う沖田の横で、は思わずクスリと笑みを零していた
緊張感の欠片も無い沖田の其の無邪気な言葉は、つかみ所の無い沖田の存在を
より強くしていた。
「其れでは、今日はもう戻りましょうか? 他の方々も戻っているでしょうし
血が乾くと取れ難いでしょう?」
「そうですわね……ですけど、沖田さんも気になさるのですね?」
「何がですか?」
「返り血を……」
「ああ、僕ではありませんよ。さんはいつも綺麗に為さってるから
気になるかと思っただけですよ。行きましょう」
何でも無かった事のようにを促し、屯所へと歩を進めると屯所近くの
小さな神社の前での足が止まる。
いつもの事のように沖田へと視線を向けると、沖田は微笑を浮かべて頷き一人屯所へと
足を向けた。
がそうやって自分の意志で一人になりたがるのを、沖田は素直に受け入れていた
しかし、其れでも受け入れられない事もある。
「おはようございます、原田さん。今日の巡察は無事に終わりですよ?
原田さんの十番隊は此れから早番でしょう?」
「……あいつは?」
「誰の事ですか?」
首の後ろを掻きながら、難しい顔をして聞いてきた原田に
沖田は『誰の事』か知っていても、にっこりと笑顔を浮かべ尋ね返す
其のやり取りに、原田は『またかよ…』と苦笑を浮かべ別の方へと視線を向けた
沖田が屯所へと一歩踏み入れる度に、原田は屯所の外へと足を進める
其の音を耳にしながらも、沖田はゆっくりと瞳を閉じた。
―― 見ていなければ、何も無いのと同じ事
―― 聞かなければ、何も知らなくて済む
心を絡めていくのは、己にかかる糸のような何か
「でもね……原田さん。僕にも我慢できない事はあるんですよ?」
ポツリとそう呟くと、沖田は腰に差したままの愛刀:清光を抜きその刀の刃を
ゆっくりと指で辿っていく。
「一回の巡察で、結構刃毀れしましたね……此れじゃあ斬れません」
『砥ぎに出さないと…』と頭では考えていても、沖田の心には何も映らない
手にした刀をゆっくりと下へ向け、自分の部屋の障子を開く
目に映るのは、起き出した隊士達の忙しそうな身支度をする風景
ぼんやりと眺めていると、可愛がっている猫が自分の頭を沖田の頬へと摺り寄せ
餌を強請って来る
「くすぐったいですよ、分かりました。ご飯に行きましょうか?」
賄い方へ向かう廊下からみえる庭には、冬の花が咲いていた
風に舞う花弁に、抱いていた猫が取ろうとじゃれ付く
「華と共に舞うのを選ぶべきか、其の花弁を根から取り払うか
僕はどちらを選べばいいんでしょうね?」
咲き誇るのを眺めていたかっただけなのに……
其れを摘み取って行こうとしてしまう。
空を見れば昨夜の名残の月が白く浮かび上がっていた。
――其の日も一番隊は夜番を命じられていた。いつもの様に隊を幾つかに分け
巡廻を済ませていく。
「今日は……月が大きいですね」
「ええ、大きくて紅いですわ…」
辺りに漂う人の気配も無く、浮ぶのは怖いくらいに大きな緋色の月
「……さん、僕と仕合ってみませんか?」
「……沖田さん?」
「貴女の剣を…見たくなりました」
月を背にし清光を腰から抜き、平晴眼に構えを取る沖田の表情をの側からは
見ることが出来なかった。
僅かな月灯りといつもなら感じる浪士からの殺気が、沖田からは一つも感じ取れない
どう出てくるのか分からないのに、構えを向け対時しているのにも精神が持たない
「どうしたんですか? 見せて下さらないのですか?」
「……っ……」
言葉をかける沖田の声も表情も、からは何も感じ取る事が出来ない。
稽古の時の楽しいという感情さえも伝わってこない。
―― 一瞬
緋色の月が雲へと姿を隠し、辺りを暗闇が覆ってしまう。
その瞬間を見逃す沖田ではなく、雲が晴れた時には沖田の剣はの首筋を掠め
身をも地面へと押し倒していた。
「…っ!? おき…た…さん?」
「どうして……でしょうね? 僕は…貴女を見ていたかっただけなのに」
ポツリと呟かれた言葉と首筋を掠めた刃は、に一筋の痛みと血を流した
その血液を沖田は刀を突き立てたまま、自分の舌で舐め取り傷へと強く痕を残す
「…っゃ…」
「…僕は……貴女を……」
から顔を離した沖田の表情は月の逆光へと隠され、見ることが出来なかった
掻き消された言葉と、の頬へと零れ落ちた一滴の雫
「行きましょうか、皆が心配しますし……今夜は何もありませんでした」
月灯かりに見た沖田の顔には、いつもの微笑みが浮んでいた。
抜かれた清光はいつの間にか元の鞘へと収められ、抜かれた感じを残していなかった
沖田は倒れているへと手を伸ばし、その身体を起こすと服についた土を払う
「帰ったら一休みして、道場で稽古ですね。楽しみだなぁ〜」
「……そう…ですわね」
「久しぶりに斎藤さんでも相手してくれるといいんですけど、逃げるだろうなぁ
無理矢理にでも、誰か捕まえましょうか?」
ニコニコと笑みをみせ、何事も無かったかのように沖田は話を始め
屯所への道を歩き出す。
屯所へ戻るといつもの様に門の前に寄りかかり、道を眺める原田の姿
「おはようございます、今日は非番ですか?」
「知ってるだろーが」
「知りませんよ、僕は十番隊の隊務まで見てません」
「なんかあったのか?」
首の後ろを掻き、沖田へと尋ねる原田に沖田はにっこりと笑みを浮かべる
「さぁ…? 隊務に支障は無いはずですよ、何もね」
「はッ…ガキかよ」
「僕は其れでいいですよ、むしろ…子供のままで居る事にしますから」
口元に笑みだけを浮かべた沖田の瞳を、原田は見ることが出来なかった
背を向け自分の部屋へと帰る沖田に、原田も背を向け屯所を後にする
沖田の傍らには、いつも可愛がる黒猫がいつの間にか姿を現していた
おわり
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蒼い空と猫な日々 / 紫葵七緒さまより頂きましたv
沖田さん→固定ヒロイン+原田さん設定で・・・
拙宅夢の『紅い花が香る』に絡んだお話を書いて下さいました。
もぅもぅもぅ・・・
泣きそうです、って言うかちょっと泣いたかもしれません。
沖田さんの涙がっ・・・・・・切なすぎます!
苦しくて胸が潰れそうですよ・・・うちのヒロイン(涙)
でも、切ないお話は大好きなので!とても嬉しかったです!!
紫葵さん、素敵な沖田さんをありがとうございました!
大好きですっっ!!!
2006.12.25 紅月 レン
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