【夜想曲】
昼を告げる鐘の音。
原田が飯に出ようとすると、幕府の要人の警護に当たっていた一番隊がちょうど帰参したところだった。
無意識に探すただひとつの存在。
沖田はそれに気付きながらも、わざとそれに触れずに微笑んだ。
「原田さん、ご飯を食べに行かれるんですか?」
「あ、あぁ……まぁな」
心此処にあらず、といった表情で答える原田に沖田は軽く息を漏らす。
その目の先に何を求めているのか、気付きたくなくてもわかってしまう。
「さんなら居ませんよ」
「あん? なんでだよ」
「昨日から体調を崩されて、今日は部屋で休んでいますよ。知らなかったんですか?」
が倒れたのは、昨日原田の属する十番隊が夜番に出た後である。
だから誰かがわざわざ伝えでもしない限り、夜番明けで昼まで寝ていた原田が知る由もなかった。
勿論、原田との関係を知っている者は居ないに等しいから、違う隊に属するの容態まで原田に伝える者も居ない。
それを知っていて沖田はわざと挑発するような口調で告げたのだ。
「あいつが隊務を休むなんて……そんなに悪いのか?」
「昨晩いきなり倒れたので吃驚しましたよ。暫くは安静にしていないと駄目だそうです。
……だから、原田さん。安静の邪魔、しないでくださいね?」
「わ……わぁってるよ」
今にも部屋に飛び込んで行きかねない原田を、沖田は何もかも見透かしたようにやんわりと制する。
原田は出鼻を挫かれ、口を尖らせた。
「でもよ……ちょっと様子を見に行くくれぇ……」
「駄・目・です。さんは僕の組の者です。僕の言うことを聞いていただけないんなら、幾ら原田さんでも容赦はしませんから」
沖田はにっこり笑って原田を見ると、そのまま自室に戻っていった。
その笑顔には無言の圧力があり、原田は二の句を告げることも叶わず、昼飯に出掛ける気力も無くなり仕方なく自室に戻ることにした。
◆ ◆ ◆
「眠れねぇ……」
その日の夜。
原田は布団の上で何度も寝返りをうっては溜息をついた。
辺りは漆黒の闇。
既に日も変わっている刻限であろうことは間違いない。
諦めたように身体を起こし、原田は部屋を出た。
しんと静まり返った屯所の廊下に射し込む月の淡い光。
窓から外を見れば、物言いたげに光を放つ満月がの温もりを思い出させた。
「総司……悪ぃな。約束は守れそうにねぇぜ」
そう一言呟くと、原田は足音を殺しての部屋に向かった。
部屋に着くと辺りを確認し、そっと襖を開け中に忍び入る。
床に臥しているの小さな寝息が聞こえてくる。
いつもなら少しの物音にさえも敏感に反応するであったが、身体を侵蝕する病が侵入者の存在さえも気付かせずにいた。
原田は起こさないようゆっくりと近付くと、の傍らに座った。
闇の中にうっすらと浮かぶ白くて美しく……愛しい寝顔。
時折苦しそうに歪められるその顔を見ていると、自分まで苦しくなるような気がしてくる。
「……」
聞こえないくらいの声で愛しい名を呼び、そっと寝乱れた髪に手を伸ばした……
その時、の肩がぴくりと動き即座に常時近くに忍ばせているであろう小柄が掴まれる。
原田は一瞬あせったが、弱りきったの手から小柄が転がり落ちた。
朦朧とした意識の中、必死に起こそうとした身体が不意に安心する香りに包まれる。
「脅かして悪ぃ……俺だ。原田左之助だ」
「左之……助さん……?」
暗がりの中ではっきりと顔は見えないがこの腕の力強さは、身体を包むこの匂いは紛れもなくのよく知るものであった。
力無く抱き締め返すとは堪らず一筋の涙を流す。
「ずっと……逢いたかったです……わ。私、夢を……見ているのかしら……」
「夢、なんかじゃねーよ。おまえが倒れたって聞いて居ても立ってもいられなくてよ。
おまえ、こんな状態になるまでなに無茶してんだよ……」
今にも溶けてしまいそうな熱い体。
ぐったりとした肉体。
原田は思わず顔を顰めた。
自分が気付かない間にはこんなにも苦しんでいたのだ。
代われるもんなら今すぐに代わってやりてぇ。
原田はそう思わずにはいられなかった。
「それでも……こうして逢いに来てくださったんですもの……これが夢でないなら……
こんな風邪、なんてことありませんわ」
にっこりと笑みを浮かべて原田を見つめるその瞳は熱で潤んでいる。
頬は赤く染まり、原田の首筋に当たる吐息は熱い。
原田は吸い込まれるように顔を近付けるとそっと呟いた。
「そんな風邪……俺に移しちまえよ」
言葉と同時に唇が重なる。
それを静かに受け止めただったがややあって焦ったように原田の身体を押し返した。
一気に思考がはっきりとする。
「な、な、何をしてるんですの?!そんなことしたら左之助さんに風邪が……ごほっごほっ……」
原田は押し返す手を握ると指を絡めをじっと見つめる。
そして困ったように笑った。
「いいんだよ、俺がそうしてぇんだ。おまえの全部を俺にくれよ」
「全部って……はぁ……ん」
原田はを布団に寝かせると、熱のせいか感度が上がっているの身体に雨のような接吻を降らせる。
寝乱れていた襦袢は簡単にの身体を露にさせた。
冷気に身体を震わせるのと同時に感じる熱い原田の唇。
だんだん熱をもつ互いの身体。
「悪ぃ……。こんな状態だっつーのはわかってるんだけどよ……我慢できねぇ」
「んっ……左之……助さん……やっ……駄目っ、駄目ですわ……」
の中に差し込まれた指が動くと、およそ病人の部屋には似つかない音が鳴り響いた。
必死に堪えるの意識はとうに普通の状態ではない。
音は更に二人を煽り、熱は理性の箍を外す。
「……挿入れるぜ……っ」
この行為がにとって酷なことはよくわかっている。
それでも原田はやめようとはしなかった。
とひとつになることでの苦しみを自分も背負える。
そんな馬鹿なことを原田は真剣に考えていたのだ。
が倒れたと耳にした時点で、既にこの男の感覚もおかしくなっていたのだろう。
「は……ぁん……っ」
まるで熱湯のような温度をもってから溢れ出る蜜。
原田の動きに合わせての身体は小刻みに震えた。
頭が真っ白で何も考えられない。
ただ襲ってくるのはぎすぎすとした身体の痛み。
そして身体の内からこみ上げてくる快感。
「の中で……溶けちまいそうだぜ……っ。んんっ…………大丈夫……か?」
「はぁ……はぁっ……」
虚ろに宙を泳ぐの視線。
原田はの唇に自分のそれを重ねると一気に腰を早めた。
あとからあとから噴き出してくる汗。
互いの息が上がり、が先に意識を手放すと同時に原田もそのまま自身を解放させた。
「やっぱ……無理、させちまったよなぁ……」
ようやく我に返った原田はの汗を拭い、襦袢を変え、新たな薬を自らの口に含んでに飲ませると再び布団に寝かした。
改めて自分の行いに後悔する。
「あーーー。たく……俺は一体何やってんだよ」
は意識を手放したまま深い眠りについてしまったようだ。
原田はそれから夜通し汗を拭い、氷嚢を変えの側を離れようとはしなかった。
夜が明けて隊士たちが起き出す頃、誰にも気付かれぬようにそっと自室に戻っていった。
◆ ◆ ◆
翌日。
「さん、具合はどうですか?」
優しく響く声で目が覚めると、青い髪がさらさらと目の前で揺れた。
「沖田さん……」
寝ている姿を見られるのが恥ずかしくて布団を顔の半分位のところまで被りながら答える。
(原田さんがずっと側に居てくれたような気がしたのですけれど……あれは夢だったのかしら)
そんなことをぼんやりと考えながら。
「ちょっと失礼しますね」
沖田の手がそっとの額に触れる。
沖田の手は相変わらずひんやりとしていて気持ちが良い。
「うーん……昨日よりは大分下がっているみたいですけど」
「えぇ。昨日よりは随分身体も楽になりましたわ。ご心配をおかけして申し訳ありません」
は上半身を起こしてすまなそうに頭を下げた。
薬が効いたのか本当に身体が楽になっている。
まだ本調子とは言えないが、なんとか動けそうだ。
「でも、今日一日はゆっくり休んでくださいね。昨日は全然ご飯も食べてないですし」
「……今日は夜番ですからまだ時間もありますし、そんなに隊務を休むわけにはいきませんわ」
首を振って立ち上がろうとするの肩を沖田は押さえる。
「言うと思いましたよ。でも申し訳ありませんが、それは許可することはできません。
それが何故だかあなたにはわかるでしょう?」
沖田の目が真剣にを見つめる。
はぐっと立ち上がろうとしたが、やがて納得したように肩を落とした。
「はい……今日は大人しくしておりますわ」
「そうしてくれると、僕も安心して隊務に出れますよ。あなたに何かがあっては僕も心配ですからね」
妖艶な笑みを浮かべる沖田にはほんのり頬を染めた。
沖田はたまにどきっとするようなことを口にする。
微妙な表情の変化に気付いた沖田はわざとらしく「そういえば、今日は原田さんを見てませんねぇ」
と廊下の方に目を移した。
「えっ?」
つられて廊下の方に目を移すと、永倉がひょっこり顔を覗かせた。
「あ〜、それが左之のやつがよォ、今朝は珍しく熱出して寝込んでんだよなァ」
「ですって、さん。まさか……昨日この部屋に悪さしに来た……なんてことはありませんよねぇ?」
「え、えぇ……昨日はお会いしていないと思いますけれど……」
は頬に手を当て困ったように微笑んだ。
昨日側に感じていた温もり。
あの夢だと思っていた出来事はまさか現実だったのかしら……。
「おまえの全部を俺にくれよ」
耳に残る言葉。
まさか……本当に……?
は逸る気持ちを抑えて、自分の容態を見守る二人ににっこりと微笑んだ。
「殿方がいらっしゃったら、私いつまでたっても着替えられませんわ」
「あ、あァ。すまねェな」
「そ、そうですね。すみませんでした。さん……」
慌てて部屋を後にする二人を確認すると、は素早く着物を纏いそっと原田の部屋に向かった。
「やっぱり……似たもの同士なんですかねぇ、あの二人」
「あン? なんか言ったか?」
「いいえ〜。永倉さん、これから一緒にご飯でも食べに行きません?」
沖田は気付かれないように小さく溜息をつくと、その場から離れるように永倉を連れ出した。
その頃。
原田は熱に苦しみながらも口元には小さく笑みを浮かべていた。
「これでが楽になってんなら……」
原田の想いはいつもひとつ。
おまえの痛みも。
おまえの苦しみも。
おまえのもんは全て俺のもんだ。
誰にも……病にだってやりゃしねぇよ。
【終】
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諷凛花散 / 銀木星さまより頂きましたv
きゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んvvv
原田さぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん(>_<)
(バタっorz ・・・酸欠になりました/笑)
銀さん、素敵なお話ありがとうございます!!!
もぅもぅもぅ・・・
口から心臓が飛び出るかと思いましたよ!
ドキドキしすぎて(爆笑)
臥せってるときに、こんな優しい原田さんが
忍んで逢いに来てくれるなら、またぶっ倒れても良いかなぁ・・・
なんて思ってしまいました(笑)
銀さん、素敵な原田さんをありがとうございました!
大好きですっっvvv
2007.05.02 紅月 レン
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