『緋衣草』
「……?! おまえ……んな格好でどこ行くんだよ」
艶やかな着物を身に纏い、長い髪をまとめ上げ、軽く肩を肌蹴させたその格好は、
男なら誰でも目を奪われる程艶めかしく美しい。
花街に程近い通りを歩いていた隊務帰りの原田はすれ違い様に一瞬その姿に見惚れたが、
すぐそれがよく見知っている――自分にとって大切な女性であることに気付きその手を掴んだ。
女性は戸惑ったように一度視線を背けたが、仕方なく顔を上げ原田を見た。
その瞳は揺れている。
「原田さん……」
「なんで、そんな格好……」
呆然と立ち尽くす原田に困ったように笑みを見せると、
その女性――は無言のまま原田を人気の無い小さい路地へと導いた。
途中辺りを窺い、誰の目にも留まっていないことを確認しながらは言葉を紡ぐ。
「申し訳ありません。今は左之助さんに事情を説明することができませんの。
帰ったらゆっくりお話致しますから、今は何も聞かずにこのままお帰りくださいませ」
はそれだけ話し、小さく会釈をするとすぐその場を立ち去ろうとした。
しかし原田はそれを許さなかった。の行き場を両腕で塞ぐ。
「言えねーってんなら答えなくてもいい。予想はつくしな。
でもよ、その格好っつーことは……刀持ってねーんじゃねーのか?」
「……ええ。その通りですわ」
「何も持たねーで、そんなに肌を露出させられてよ……
もし襲われちまったらどーすんだよ……!」
掠れた声で絞り出すように強められた語尾が原田の怒りを表している。
表情が次第に険しくなり握った拳を壁に打ちつけるとの肩が一瞬ピクッと揺れた。
原田は真っ直ぐな瞳でを見つめると「行かせねぇ」と小さく呟いた。
は困ったように首を横に振る。
「他の殿方には指一本触らせませんわ。……私のことが信じられませんの?」
「そりゃおまえのことは信じてんに決まってんだろ?
……でもよ、信じるとか信じねーとか、そんなんじゃねーんだ。
ただ単純に俺が嫌なんだよ……ッ」
原田の言葉にはクスリと笑みを浮かべると、白い手を伸ばし原田の頬を包み込んだ。
「……困った方ですわね。これは任務なのですわよ?」
「それでもだ。嫌なもんは嫌なんだから仕方ねーだろ?
……おまえのそんな格好……俺以外の誰にも見せたくねーんだよ」
「局長や副長に背いても……ですの?」
「……ああ」
苦しそうな表情を見せた原田は壁に押し付けるようにに接吻けた。
躊躇いながらももそれに応え、舌が奥で深く絡まりあう。
通りを歩く人の声が遠くに聞こえる。
狂おしい程激しく求められる接吻には眩暈を覚えた。
ややあっては原田を制し「わかりましたわ」と肌蹴た着物を正す。
そして原田の唇を人差し指で抑えながら艶やかに微笑んだ。
「私も新選組の一員である以上、一度引き受けた任務を放り出すことは出来ませんわ。
もうわかってらっしゃると思いますから言いますけど、私は「とある人物」を誘い出す為の囮ですの。
その人物が女性の誘惑に弱いという情報からこんな格好をさせられたのですけれど……
肌を露出せずともおびき出してみせますわ」
「……」
「でも、万が一手を出されて逃げられないようなことがありましたら、
その場で舌を噛みきって死ぬ覚悟はありますの。
ですから左之助さん……そうならないように私のことをこっそり守ってくださいませ」
は原田の着物を掴み訴えるような瞳で見つめた。
生温い風がの頬にかかる髪を攫う。
原田は暫く無言で迷いのないの瞳を見つめた後、ふ…と鼻から息を漏らした。
「には敵わねーぜ……わかったよ。おまえのことは何があっても俺が絶対守る。
だから俺を信じて任務を全うしろよ」
の肩を自分の胸に寄せ、原田は静かに頷いた。
そうだ。
俺はの、他の女にはねぇこーいうとこに惹かれたんだ。
でも、ただ待ってるだけなんて出来るはずもねぇ。
俺はこいつと決めた女は、自分で絶対ぇ守る。
そう心に決めている。
だから、俺はがどこに居ても何があっても飛んでいける距離に居てぇ。
「には……指一本触れさせねぇからよ!!」
「信じてますわ、左之助さん」
嬉しそうな表情で今度はから軽く接吻けると、
原田の腕をさらりと交わしは雑踏の中に戻って行った。
原田はひとつ大きく息を吸い込むと一瞬後、雑踏に紛れ辺りを窺いつつの姿を追った。
離れた場所で。
姿は見えなくても。
互いの存在を感じながら。
は隊務を全うし、原田はそれを見守った。
見えない絆。
交わされた約束。
「信じる」という曖昧な言葉。
ただ信じられるのは
己の熱い想いだけ。
それでも、変わらない真実がふたりの間には……ある。
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諷凛花散 / 銀木星さまより頂きましたv
緋衣草は和名ですが、英名はサルビアですね!!!
サルビア・・・私の誕生日の花じゃないですか(驚)
きゃぁ〜んv嬉しいです〜〜〜vvv
花言葉は「燃える想い」ですが、お話の原田さんの真摯な想いに
きゅ〜んってなってしまいました!!!
お互い信頼し合っている関係って凄く素敵だと思うのですが、
原田さんとヒロインをそんなふうに書いて頂けて
とても嬉しかったです(感涙)
銀さん、お誕生日に素敵なお話をありがとうございました!!!
大好きです〜〜〜〜〜vvv
2007.08.19 紅月 レン
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