『十五夜』



何が悲しいとか


何が寂しいとか


そういう訳じゃない


古来より人々に愛されているこの月が


時折理由も無く切なくさせる


淡く切ない光が胸を苦しくさせる


ただそれだけ……







満月は人の心を映し出す鏡。
闇夜を煌々と照らす月を眺めには一人、表に出た。
蒼白いその姿に浮かぶのは近くて遠いあの方の笑顔。
は思わず出た溜息を振り払うように「綺麗ですわね……」と呟いた。

(今頃あの方も同じように月を眺めているのかしら……)

が小さく微笑うと同時に背中越しに響く聞き慣れた低い声。

「おい……おまえ一人か?」
「原田さん、こんばんは。……ええ、そうですわよ」

は月を見上げたまま、柔らかく微笑む。
でも、その笑顔はどこか儚げで。
原田は抱き締めたい衝動に駆られ、それを抑えるかのようにぎゅっと拳を握り締めた。

「今日は十五夜だろ? 一緒に月見にでも出掛けたのかと思ったぜ。……あいつはどうしたんだよ?」
「あの方は先ほど近藤さんに連れられて出掛けられましたわ」
「あー……また近藤さんかよ」
原田は頭を掻きながら軽く息をつくと、の肩に手をかけた。

「そろそろ部屋に戻れよ。こんな時間に突っ立ってたら風邪引いちまうだろ?」

着物越しに触れた身体は既に冷え切っていて。
原田は無性に此処にいない沖田を恨めしく思った。

「でも……まだ月を見ていたいんですの。
だから、私のことなど気にされずに原田さんは部屋に戻ってくださいませ」
最後に「いつもありがとうございます」と付け加えては再び空に目を移した。

「おまえを独りになんか出来っかよ……」
独り言のように呟くと、原田は急にの手を取って歩き始めた。

「は、原田さん……っ。急にどうしたんですの?」
「俺の部屋に行くぜ」
「え……?」

足をよろめかせながらは困ったように原田を見た。
暗がりの中で現在どんな表情をしているのかわからない。

「月が見えりゃいいんだろ? 俺の部屋の窓からもよく月が見えんだよ」

ぶっきらぼうに聞こえる原田の言葉はいつも何気に優しくて。
沖田に対する想いとはまた違って、温かい気持ちになれる。
そう感じさせてくれる人だ。

「原田さん……あの、待ってください。一人で歩けますから」

は手を引かれるこの光景にほんのりと頬を染め、原田の動きを軽く制した。

「だってよ……無理にでも連れてかねーと、あそこから動かなかったろ?」
「最初はそのつもりでしたけど……原田さんの部屋から見える月というのも興味がありますわ」
「そ、そうか……。んじゃ、俺の部屋で月見酒でもしよーぜ」

(此処は屯所だ。誰かに見られたら噂になっちまうもんな……)

我に返ると急に自分の行動に頬が火照ってくる。
原田はあせったように手を離すと、を見て照れたように笑った。
二人は肩を並べて原田の部屋に向かった。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「熱〜い酒持って来てやったぜ。それと肴もな」
「ありがとうございます」

は原田を見上げ微笑む。

窓から射し込む淡い月の光に照らされながら、二人は静かに酒を呑み交わした。

「部屋から見える月というのも風情があって良いですわね。原田さんが羨ましいですわ」
「そうか? 俺は今まであまり意識してなかったけどな。……なんなら毎日でも来たっていいんだぜ?」

原田の言葉にはくすくすと笑い出した。

「夜の秘め事にでも誘われているみたいですわね」
「……そういうつもりだとしたら?」

は一度目を見開いたが、すぐいつもの微笑を浮かべた。
「原田さんはお優しいですから……独りの私が放っておけないだけですわ」
「俺が優しいって?」
「ええ」

は猪口に注がれた酒を静かに口に運ぶ。
月明かりに照らされたその紅い唇は艶かしく潤み、それが原田の理性を揺るがせた。

思わず出した手がの指に触れる。

が原田の方に目を移すと同時に顔を寄せられ唇が重ねられた。
手元から猪口が転がり落ち、畳には残った酒の染みが広がっていく。

原田の唐突なその行動は、原田自身の熱い想いが語られているようで
は黙ってそれを受け入れた。

「抵抗……しねぇのかよ?」

「満月には……人を狂わせる魔力があるとは思いません?」
そう言って妖艶な笑みを浮かべるの瞳に浮かされたように原田は強引に腕を引き、
そのまま床に組み敷いた。

指を絡め再び唇を重ねると、割りいれた唇からを求める。
それはまるで箍が外れた獣のよう。
押さえ込んできた感情が一気に放出される。

「は……ぁ……」

時折漏れるの甘い吐息さえも惜しむように何度も何度も角度を変えての接吻。
帯紐に手をかけそれを一気に引き抜こうとすると、は軽くそれを制した。

「これ以上は……お互い苦しいだけですわ」

原田の脳裏に沖田の姿がちらつく。
に目を移すと、切なげな微笑みが向けられた。

それでも……と原田は首を振る。

「悪ぃな……今更後には引けねぇんだよ」

一度求めてしまった身体は火照りを抑えられる訳もなく。
後悔することは目に見えていても。
後でこいつや総司から怨まれることになったとしても。


―― 今日のこの熱に勝てるものなんてねぇんだよ ――


満月に雲がかかり、闇が広がると原田は少し乱暴に帯を解き切った。

「原……田さん……っ」

震えた声で見上げるの唇を塞ぎ襦袢の紐も解く。
白い肌が艶めかしく光り、原田は堪らずそれに吸い付いた。

「や……だめ……ですわ……ん……」
少し吸っただけでその白い肌には簡単に赤く痕が付いた。

「おまえの肌……透き通ってるみてぇだな?」
右手で胸を弄り、あちらこちらに花弁を散らしながら原田の接吻はだんだんと下を目指していく。
それに気がつくとは身体を震わせ懇願するように原田を見つめた。

「原田……さん、いけませんわ……これ以上は……」
の震えた声に視線を上げると潤んだ瞳が原田を見つめている。
原田は一瞬迷いを見せたが、すぐに首を横に振る。

「俺は……優しくなんかねぇ……。おまえが欲しい。ただ、それだけだ」
かすれた声は切なさと苦しさを含んでいた。
息を呑んだの足を強引に割ると、原田は太腿の内側に舌を這わせ、それを秘所に到達させた。

「………………!!」

は視線を背け畳に爪を立てた。
湧き上がる熱を堪えるように。
気持ちまで流されないように。
そう心では必死に抗おうとしているのに、身体は言うことを聞いてくれない。
原田は指で壁を押し開くとそこを吸い上げるように舌を這わせた。

「……や……ぁあ!!」

ぴくん。

ぴくんとの身体が小さく跳ねる度、そこから蜜が溢れ出す。
それをまるで極上の酒でも呑むかのように原田は堪能する。

は……蜜まで薔薇の香りがするんだな」
「な、何を言って……るんですの?……そんな……っ……」
目を開けたは自分の股の間から覗く原田の笑みを浮かべた表情に頬を染めた。

普段あまり見ることが無い優しげな眼差しと愛しそうに股の間に落とされる接吻。

「原田さん……っ……お願いです……私を……私の心をこれ以上乱さないで……くださいませ」

「ん……?」
の言葉に原田は顔を上げ、体勢を上にずらした。
熱に潤んだの瞳を見つめ、さらさらと流れる髪を撫でる。

「今だけ……今だけでいいから、月の魔力のせいにして乱れちまえよ。……他の何もかもを忘れて、
俺のことだけ感じてりゃいい」
「原田さん……」
「その後は嫌っても憎んでも構わねーからよ……」
切なげに吐かれる言葉と共に落とされる接吻。
再び雲から顔を出した月が横たわるの顔を照らす。

原田はの腰を高く持ち上げると、一気に自身を突き刺した。


「あぁぁぁぁ………!!」


……!!」


原田は自身を最奥部まで到達させると休む暇も無く腰を動かした。

「あんっ……あんっ……」

は畳に爪を立て必死に身体を抑える。
それに気付いた原田は一度動くのをやめ、の両腕を自分の背に回した。

……んなとこに爪立てんな。爪が傷んじまう」
「でも……でないと原田さんの背に爪を立ててしまいますわ」
「いいんだよ、それで」
頬を熱で染めて満足そうに笑う原田にも小さく微笑む。

互いを映す瞳はまっすぐに重なり合い。
互いを想う気持ちは接吻となって交わされる。

原田は再び想いの丈をへとぶつけた。


「あ……っ、は、原田さん……もっと……激しく……ッ」

、俺はおまえが……好きだ……ッ……」


妖しく淫らに響く蜜の音と。

自分の腕の中で乱れるその愛しい女性の艶めかしい声に。

満月の夜に獣となった男は、更に腰の律動を早め最奥部めがけて自分の欲望を打ちつける。


「あぁ……もうっ……だ、だめ……!!」


一際高くの声が響き、一瞬早く力が抜けたのを腕の中で感じると、
原田も合わせたように臨界点に到達した。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



――意識が戻り目を開けると、の髪を撫でる原田と目が合った。

「気がついたか?」

原田は照れくさそうな申し訳なさそうな曖昧な表情をしている。

一糸纏わぬ互いの身体を目にし、は改めて頬を染める。
そして小さく微笑を浮かべると、「ずっとこうしててくださったんですの?」と聞いた。

「あぁ……おまえが意識を失ってから、目を覚ますまでずっとこうしていた。
おまえの髪が気持ち良かったからよ」
髪を撫でる手を止めることなく原田は頷く。

そして、一瞬躊躇いを見せた後「、すまなかった」と小さく呟いた。

「原田さん……」
「おまえの気持ちを無視して強引に……その……しちまったのは悪かったって思ってる」
は答えずに黙って原田を見つめる。

「でもよ、悪いとは思ってっけど、後悔はしてねぇ。だから俺を怨むってんなら怨んでくれて構わ……」
「それを聞いて安心しましたわ」
原田の言葉を遮るようには艶やかに言い放った。
絶句する原田の頬を撫では微笑む。

「後悔する位なら抱かれてなんかやりませんわ……
私は……原田さんですから身体を重ねても良いと思ったんですもの」
……」

驚きは次第に笑みへと変わっていく。

「でも、私を抱いた罰は重いですわよ? 心してくださいませね?」
悪戯っぽく笑うを原田はきつく抱き寄せた。

「あぁ、わかった。おまえの罰ならどんな罰だって受けるぜ」
そして互いの存在を確かめ合うような接吻を交わす。

「おまえが誰を見ていても……、俺はおまえのことが好きだ」
自分の気持ちを確かめるように原田は何度も呟く。





十五夜。


一年のうちで月が最も美しく見えるその日。


人の心を映し。


人の心を惑わす。


ふたりの秘め事はここが始まり。





【終】

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忍冬〜すいかずら〜 / 銀木星さまより頂きましたv

原田さぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん(>_<)
優しいのに強引な原田さんにトキメキが止まりません!!!
はきゅ〜〜〜〜〜〜〜〜んvvv(バタッ/倒れました)

「諷凛花散」銀木星さまの別館「忍冬〜すいかずら〜」さまの
1000打ゲットの際にリクエストさせて頂きましたお話ですv
確か原田さんで裏でお願いします〜と言った気が(笑)

優しいのに強引な・・・(笑)
ちょっと切ないのにやっぱり強引な(笑)
原田さんが堪りませんっっ(>_<)vvv

銀さん、こんなに素敵な原田さんを本当にありがとうございました!
大好きですっっvvv


2007.09.20 紅月 レン



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