『赦されない恋でいい』




 「・・・あ・・・っ・・・・・・」





 丸い窓から、揺らめく月の細い光が、闇に包まれるキッチンを、真の闇からほんの少しだけ解放する。


 甲板に出て、肌をすべる心地よい潮風に触れることができれば・・・
 船に当たってはゆっくりと砕け散る、穏やかな波の音を聞くことができれば・・・
 せめて、ひとめでも、窓の外に広がる無数の星屑を見ることができたなら、自分を取り巻く優しい自然に心を癒されることもできただろう。

 でも、今のサンジに認識できるものは、汗に湿った身体に纏わり付くような重苦しい空気と、のどの奥から切なげに漏れる自分の吐息だけだった。



 「く・・・んあっ・・・・・・」

 キッチンの船尾側の壁に、半分ずり下がった体勢でもたれ掛かり、足は入り口のドアへ向かって放り出している。
 深夜とは言え、誰かが入ってきたらどうするのだとか、そういう考えはもうサンジには無い。
 放り出された足は、片方にだけズボンと下着を穿いており、力なく曲げられた膝の部分にかろうじてひっかかっていた。

 緩められたネクタイは完全に外すことができず、しどけなく首からぶら下がっている。
 ワイシャツは上から3番目までボタンを外し、そこから胸元に手を滑らせ、小さく自己主張する乳首を爪で掠めると、わずかな刺激にも耐えられず声が漏れた。



 「は・・・んっ」


 自分以外、誰もいない暗闇だけど・・・
 目を閉じれば、いつでもそこに映る影が見えるのだ。




 まぶたの裏に、強い日差しの中でも凛とした表情の剣士の姿が焼きついている。
 太陽の恵みを一心に受け、鮮やかに映える緑の髪が目に眩しい。
 甲板で、飽きることなく、毎日毎日行われるゾロのトレーニング。
 自分の何倍もある鉄の塊を、いとも簡単に持ち上げては振り下ろす。
 ただそれだけの単純な動作なのに、引き締まった口元と真剣な表情が、まるで神聖な儀式でもしているかのように思わせる。
 日に焼けた肌に、一縷の隙も無く鍛え抜かれた身体。

 そこに・・・滴り落ちる汗に息を呑んだ。






 (俺は穢れてる・・・・・・)






 頭の中でゾロは、普段のストイックさからは創造もできないくらい情欲に濡れた、深い翠の瞳をサンジへと向ける。


 “テメェはほんと淫乱な奴だな。乳首なんか感じるのかよ”

 こんな声、聞いたこともないのに、いつもよりも低く甘いトーンの声がリアルに再現できるのはなぜだろう。
 ワイシャツの胸元に差し込んだ、左手の親指と人差し指で、執拗に乳首を、こねるように潰したり、強く引っ張ったりを繰り返す。
 その手は、いつもよく手入れをしている繊細なコックの手ではなく、節ばったゴツイ手に刷り代わっている。


 “コッチなんてほとんど刺激してねぇのにヌルヌルじゃねぇか・・・”

 空いた右手は、ゆるく勃ちあがるペニスに軽く添えられ、先端から漏れるガマン汁が指を伝い、床に暗い染みを広げる。


 トロトロと溢れる白濁した液を、手のひらで、サオの先端から根元まで塗り広げると、滑らせる指に段々と力を込め、刺激を強くする。



 「ぅ・・・ん・・・」



 “ほら、もっと善がってみせろよ・・・こんな刺激じゃ足りねぇのか・・・?”
 ペニスの根元から亀頭までを擦る右手に断続的に力を加えると、腿の内側から背筋まで上る快感のせいで目元が妖しく濡れていく。


 (あ・・・ゾ・・・ロォ・・・・・・)


 左手で刺激を与えていたピンク色の右乳首と、右手で強く扱いていたペニスの先端の穴に同時に爪を立てる。

 「ひっ・・・・・・」

 強い刺激に半開きの口から悲鳴に近い声が漏れた。
 不安定な体勢で肩口に顔を埋めると、堪らずワイシャツの襟を噛む。


 “酷くされる方がイイんだろ?”
 妖しく笑うゾロの、囁く声が耳の奥に響く。

 ありえない幻影に翻弄される。
 でもこれが自分の本当の望み・・・・・・

 ゾロに触れたい、もと強く、もっと激しく・・・
 鍛えられた、鋼の強さを秘めた、あの腕に壊されたい・・・
 狂おしい想いに胸が・・・焼き切れそうだ・・・・・






 「はっ・・・ぁ・・・・・・」

 炎のように熱い吐息が絶え間なく漏れ、鼓動が段々と早くなる。
 下半身が震え、腰の奥に熱いカタマリが集まりだす。


 “ほら、もうイけよ・・・イく瞬間のエロい面を俺に見せな・・・”
 脳に直接響く、低く甘い声に導かれるように、天を仰ぐ。
 と、サオの根元から亀頭までを、更に強い力で一気にしごく。



 「ん・・・っ、ぁ・・・ゾロ・・・・・・」

 一度だけ、秘めた想いが吐息とともに漏れる。
 その瞬間、身体の奥から湧き上る震えがペニスまで達すると、先端の穴から勢いよく精液が飛び出し、世界が白く砕け散った・・・・・・












 けだるさに指一本動かしたくなくて、壁を背に斜めにずり落ちる身体を、そのままキッチンの床へと沈めと、 口元からだらしなく流れ落ちる透明な液を拭うこともできず、白濁した液とは別のシミが床に広がっていく。


 絶頂を迎えたあとの、重い罪悪感。
 火照りがひき、冷める体と比例して、覚醒する意識とともに湧き上がる後ろ暗い想い。

 きつく唇をかみ締めていると、錆びた鉄の味が段々と舌の上に広がっていく。




 (俺は穢れてる・・・・・・)


 きつく目を閉じると、快楽ではない涙が頬を伝う。
 あとからあとから、とめどなく溢れるのは、ただの涙なのか、想いの破片なのか・・・
 自分している罪の重さに肩が震え、喉の奥からは耐え切れなくなった嗚咽が漏れそうになる。


 (わかってても・・・もう止められねぇよ)

 こんなにも奥深くまで自分の内部に侵食して来た存在。
 それだけで心が侵されていく気がする。


 気づいてしまったら、もう暗い深淵から引き返すことはできない。












 赦されない恋でいい・・・・・・












 だからどうか、偽りでもいいから、今のこの優しい時間が1秒でも長く続きますように・・・
 信じてもいない神には祈らないけれど・・・



 毎夜のように繰り返される浅ましい行為を、窓の外からただ黙って見守り続ける、細い月に願おう・・・・・・





 ゾロが・・・俺の気持ちに気づかないように・・・・・・・・・











 その願いは闇へと吸い込まれる。




 キッチンでサンジがもたれ掛かっていた壁の丁度反対側。

 船尾の後方甲板で、同じく壁にもたれ掛かって、息を潜め、闇に溶けるように気配を殺した影が存在していたことに、 サンジが気づくことはなかった・・・・・・・・・






 End

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初めて短編を書きました。
小説を書こうとするとすぐ続き物になってしまうのですが・・・
これは、パッと思いついてガッと仕上げたので短めです。

ちょっと暗いサンジ視点のお話ですが。
基本的にはハッピーエンド体質なのでこれも幸せになるはずです!

ラストに出で来た思わせぶりな影(笑)
そっちサイドの話もそのうち書けると良いですが・・・(汗)

そして、とうとうやってしまいましたR指定(笑)
4回もペ●スなんて書いちゃって(泣)
(今更伏字にしても・・・って感じですが)
もうお嫁に行けません(爆)

                                2003.10.31   美影 レン


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