"今日は良い天気だな"とか、"飯が出来たぞ"とか、普段の会話と同じ口調で、ゾロに好きだと言った。
こんな、素っ気無い告白が・・・俺の精一杯だ。


声が震えなかった代わりに、握り締めた指先は微かに震えていたかもしれないけれど・・・



「そうか。」



質問を投げかけた時と同じく、静かにゾロは答える。

気まずさは無い。
きっと、夜が明ければ今までと同じ朝が来て、ゾロが俺に接する態度も変わらず、 もちろん俺も変わらないだろう。
俺がゾロを好きだと言う事を、ゾロが知っている。
ただそれだけだ。

想いを否定されず、仲間である事を許される。
それが嬉しかった。




そう思ったのに・・・





「俺もだ」

と、低く聞こえたゾロの台詞に耳を疑う。


今、何て言ったコイツは・・・

"俺も"・・・?

俺も何だ。

"好きだ"か?

信じられない。

優しいにも程がある。

仲間を傷つけるのはそんなにも嫌か。

偽りでも想いを返そうと考える程に・・・



ゾロにそんな事を言わせた自分が許せない。
けれど、安易な台詞を吐くゾロにも腹が立った。
ぐちゃぐちゃと、色々な感情が交じり合い胸が詰まる。

苦しくて・・・胸が痛い。



「優しい嘘なんかいらねぇよ!死んじまえ!!!」



吐き出すよう叫ぶと、ゾロから顔を背け、見張台の柵に足を掛け、ダンッとそのまま飛び降りた。
逃げるように甲板を駆け抜け、キッチンへと飛び込む。
勢いのまま後ろ手に扉を閉じようとすると、俺を追ってきた黒い影に、 背中から抱きしめられた。


「俺が、いつ、嘘をついた。」

耳元にゾロの声が落ちる。
俺の身体に回された腕に込められた力は強く、振りほどくどころか 身動きすらできやしない。

「"俺も"・・・って言った。」
ずっと我慢していた声が、耐え切れず震える。

「"好きだ"って言ったら"俺も"って。・・・・・・嘘じゃねぇか。」
泣きたくなんかないのに、背中から伝わるゾロの温もりに目頭が熱くなる。

「何でソレを嘘だと思うんだ。」

「そんなの・・・てめぇが俺を好きだなんてありえねぇ。」
俺の言葉に、ピクリとゾロの身体が揺れた。

「てめぇは優しいから・・・俺がテメェを好きな事をずっと知ってて・・・俺を傷つけない為にそんな事言ったのかもしんねぇけど・・・ 嘘なんかつくな。逆に、もっと傷つくから。」
最後の方は涙声になっていて上手くしゃべれなかった。

「わかったらもう離せ」
こんなところで、ゾロの前で、みっともなく泣きたくないから早く離して欲しいと思い身じろぐと、 ゾロの腕から解放される。

ホッ・・・と溜息をつき、強張っていた身体から力を抜くと


クルッ


と身体を反転させられ・・・今度は正面から抱き寄せられた。


フワリ・・・と優しく俺の背中に腕を回し、ゾロは俺の目を覗き込む。
ゾロの、琥珀色の瞳に映る、自分の表情が見えるほど近い。

「俺は、嘘はつかねぇ」

囁くような声と共に、ゆっくりとゾロの顔が下りてきて・・・
掠めるように、ほんの少しだけ、暖かい息が唇に触れた。


驚き、瞬きすらする事を忘れて目を見開く俺に、ゾロは言葉を続ける。

「俺は・・・お前の事が好きだ。嘘じゃねぇ。ずっと・・・ずっとお前の事が好きだった。
だからさっき、お前に好きだと言われて嬉しかった。」


「俺の言葉は、信じられねぇか?」

その言葉を、信じたい・・・と思う気持ちと、それすらゾロの優しさから出た言葉なんじゃ・・・と 思う気持ちと両方あって、どうしても首を縦に振れなかった。
泣きそうな顔で黙ってゾロをみつめる俺に、しょうがないという風に笑うと・・・
ゾロは、片時も離さず持ち歩く白刃の刀を静かに抜き、俺へとかざした。


「幼い頃。俺は、親友に"世界一の大剣豪になる"と約束をした。」

知ってる・・・ゾロの心に残り続ける女性・・・くいなちゃん。


「それから、"二度と負けない"と未来の海賊王と約束をした。」

うん・・・見てた。
あの出会いが俺の人生を変えた。








「サンジ、好きだ。この刀に誓う。」








だから信じろ・・・と、言葉と同じだけ雄弁にゾロの瞳が語っていた。

けれど、目の前が涙でにじんで、段々とゾロの顔が見えなくなっていく。
膝が震え、カクンと力が抜けると・・・床に俺の身体が床に辿りつく前に ゾロの腕に掬い上げられた。

代わりに、カシャン・・・と音を立てて和道一文字が足元へと落ち、キッチンの入り口で 扉を開け放したまま抱き合う俺とゾロの、背後から差し込む月明かりを映していた。



「さっきの、ホットチョコ美味かった。また作れ。来年も再来年もその先もずっと。」

コクリと頷き、縋りつくようにように・・・ゾロを確かめるように・・・俺もゾロの首へと腕を回す。










ゾロの首筋からは、チョコレートの甘い香りだけがしていた。


End



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後編でした。

予告どおりにアップできて良かった(笑)


バレンタインネタなので甘いお話を目指したのですが・・・
ゾロが偽者くさくてすみません m(_ _)m

もちろんゾロは、告白されるまでサンジの気持ちになんて
これっぽっちも気づいておりませんでしたよ(笑)


ちなみに、ナミが作ったトリュフはロビンさんへ、
ロビンさんが作ったチョコレートケーキはナミへ
渡されました(笑)



2006.02.14  美影 レン



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