Rainy days 3 『チェリームーン 3』


 薄暗い廊下。
 遠くで聞こえる悲鳴と、何かが軋む音。
 鼻につく薬品の臭い。

 無数のドアをくぐり、部屋を抜け階段を上がると・・・また廊下。

 闇には、直ぐ目が慣れた。
 薬品に混じる錆びた鉄のような臭いも別段気にはならない。
 時折飛びでてくるお化け共も、ちらりと視線を向けると、なぜだかすぐひっこんでいく。

 ただ・・・

 「はぁ・・・」
 深い溜息を一つ吐く。

 サンジが・・・いない・・・・・・




 最初は良かった。
 俺の背にぴったりとサンジがついてくる。
 サンジは、なけなしのプライドが邪魔するらしく、流石に腕には掴まってこないが、距離をおくまいと俺のコートの端を 一生懸命握っていた。
 震える手で裾をきゅっと掴む仕種が可愛くて、暗闇で見えないのを良い事に俺の頬はゆるみっぱなしだった。

 だから思わず・・・下心がほんのちょっとも無かった訳じゃねぇけど、俺はつい・・・言ってはいけない事を、 言ってしまったらしい。

 「サンジ。怖いなら、手でも繋いでやろうか?」
 手術室と書かれた部屋へ入り、ほの暗い明かりの下で急に立ち止まり、ゾロはサンジを振り返った。
 「ばっ、馬鹿言ってんじゃねぇよ!」
 サンジはゾロのコートを掴んでいた右手を慌ててす。

 その瞬間。

 手術台に乗っかっていた、内臓を解体されている死体(流石に俺もこれはマネキンだと思っていた) が急に飛び掛ってきたのだ。

 「ひっ・・・・・・・・・ぎゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 「おいっ」
 待てと、声を掛ける前に、サンジはゾロを突き飛ばし、部屋を飛び出していってしまった。

 (・・・・・・)

 追いかけようとしても、時既に遅し。
 サンジは影も形も無く・・・
 それから、時々遠くで聞こえるサンジの悲鳴の方へ向かってひたすら歩き続けていた。



 はぐれて1時間程たった頃だろうか。
 ハタと気づく。

 (もしかして・・・迷った・・・のか?)

 俺は、決して方向音痴ではないし、迷子癖も無い。
 ただ、地図を読むのが得意じゃなく、初めて行った場所などは、目的地にたどり着くのに、少しばかり人より 時間が掛かる程度だ。

 これだけ歩けばいい加減出口に出ても良さそうだが・・・と、少し首を捻る。
 まぁ、その前にサンジを見つけなければいけないんだが、如何せん声の方に向かっても、直ぐに、 壁やら部屋やらに阻まれてしまう。

 (くそ・・・直ぐ見つけてやるからな!待ってろサンジ!)
 ぐっと拳を握り締め気合い入れる。

 トン

 何かが肩に触った。

 トン トン

 バシッ

 鬱陶しいので思い切り払うと良い音がする。

 トン トン トン

 「あ〜〜〜うぜぇ!何だ!!」
 振り返るとそこには、薬品で?溶けた顔を半分包帯で隠しているお化けがいた。
 「あの・・・すみません」
 お化けのくせに物腰が低い・・・と言うか、ゾロの剣幕に怯えている。
 「えっと。金髪で背が高くてスレンダーな方のお連れ様ですよね?」
 おずおずと尋ねてきた。
 「あ?サンジのことか?」
 「その方なんですが。館内を走り回って、セットを壊すわ、お化け役の係員に蹴りを入れるわで、もう何人も負傷者が出て いるのです。大変申し訳ございませんが、ご案内致しますので出口に向かって頂けませんでしょうか」
 そう言えば、さっきからサンジの悲鳴と一緒に「ドカッ」とか「バキッ」とか「メキメキッ」とか聞こえていたきがする。
 (・・・おいおい・・・流石にセット壊したらマズイだろ・・・)
 「コースの途中で本当に申し訳ないのですが・・・」
 係員は本当に困っているらしく、メイクで白くした顔を更に青くさせていた。
 「あぁ。わかった。」
 まぁ、俺にとってはサンジを見つける事の方が大事だ。
 闇雲に歩き回ってもいつ見つけられるかわからねぇし。

 俺はうなずくと、係員に続いて非常口から裏へ入っていった。





 「ばかやろ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 ゲシッ

 とび蹴りと共に迎えられた。
 ぐ・・・腹が痛む。

 本日2度目のサンジの蹴りだ。

 「てめぇよくも、こんなとこに1時間以上も一人きりにしやがったな!覚えとけ!!!」
 「いや・・・消えたのはてめぇが・・・」
 「あぁぁあああ???俺様が走ったらてめぇもついて来い!ノロマ!」
 ゾロの胸元を掴み、ガシガシと前後に揺さぶっている。
 でも、その目は少し潤んでいて・・・

 あぁ、怖かったんだな・・・とゾロは思った。




 サンジにどつかれ、詰られながら、それでもなんとか宥めすかして、乗り物に乗りまくり、 気付けば空は薄闇色に染まっていた。
 「大体制覇したし、そろそろ帰るか?」
 「いや。まだ乗ってねぇやつあるだろ?あれ。」
 サンジが顔を向けた方を見ると、敷地内の中央に黒い巨大な影があった。

 観覧車だ。


 「最後にあれ、乗ろうぜ!」
 「早くしねぇと置いていくぞ〜〜〜〜」
 サンジは笑いながら、パタパタと小走りで観覧車に向かっていく。
 無邪気に笑うサンジの口元に銜えられたタバコが、なぜだかシガーチョコに見えて、可笑しくて、俺も笑った。

 口元から延びる細い紫煙を辿っていくと、先に辿り着いたサンジは既に列に飲み込まれていた。
 「なぁ・・・何で列が長い方に並んでんだ?」
 良く見ると、搭乗口は2箇所あり、片方はあまり並ばずに乗れるようだ。
 しかし、サンジが並んでいる方は、列自体は10m程なのだが、殆ど列が進んでいない。
 「そっちと、こっちは違うんだよ」
 「・・・両方観覧車だろ?」
 「まぁ、そりゃそうだけどよ。あのな、富士急の観覧車は普通じゃねぇんだ。そっちの空いてる方は普通だけど、 こっちはなんと、透明観覧車だ!」
 「はぁ?透明って・・・なんだりそゃ?」
 「文字通り『透明』なわけ。壁もドアも天井も。椅子と床ですら透明だ!すげぇだろ?」
 言われて良く見ると、普通の観覧車は赤や青や緑や黄色だったりするのだが、対角線上の4つだけ、 色の付いていないゴンドラがあった。

 1周15分で4組しか乗れない。だから列ができていたのだ。
 「折角ここまで来たんだから乗らなきゃ勿体ねぇよ」
 「そうだな。別に急いで帰る必要もねぇし」
 「だろ?」
 ゾロの肯定に満足げに頷くとサンジは、へへと笑った。



 「俺さぁ、ちっせぇ頃に両親亡くしてんだわ。で、ずっとジジイと一緒に住んできたんだけどよぉ・・・」
 「レストランって、休みの日のが忙しいじゃん?」
 「本当はどっか出掛けたかったりするんだけど、どこにも行けないわけよ」
 「テレビで見た観覧車が、すげぇでかくて、こんなのに乗ったら、遠くの海まで見えるんじゃねぇかな・・・ とか思ってドキドキすんだけど・・・・・・」
 「ジジイには行きてぇって言えなくて」
 「ずっと・・・こんな遊園地に遊びに行ってみたかったんだ」

 うつむいたまま、照れくさそうにサンジは話す。

 「レディとデートとかするようになってからも、遊園地に行くキャラじゃねぇじゃん?」
 「野郎とつるむ事もなかったし。だから今日が正真正銘、遊園地初体験だ。」

 (そっか・・・だから、あんなに楽しそうだったのか・・・)

 朝からずっとテンション上がりまくっていたサンジを思い出す。
 あれは、子供の頃に子供らしくできなかったサンジの少年の姿だ。

 腹の奥がギュと切なくなった。

 「これから何度でも来れば良いじゃねぇか。俺が連れて行ってやる」
 ポンとサンジの頭に手をのせて、ワシャワシャと髪を撫でると、小さい声で

 「アホ」

 と返事がきた。





 (行きたいとこも、したいことも全部俺が付き合ってやる・・・・・・なんたって惚れてるからな)





 しばらくそのまま髪を撫でていると、次第に列は短くなり、薄闇だった空も、星が瞬く夜の色に変わっていた。




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あ〜っと、ホラーハウス『超・戦慄迷宮』は、入ったことないので想像です(^^;
いや・・・怖くて、無理でした(苦笑)
だって、自分で歩かないといけないんですよ!
腰抜けたら出れなくなっちゃう(笑)

そして・・・すみません(汗)
なぜだか更新が・・・あわわ
書きたいのに時間が〜〜〜〜わぁ〜〜〜〜ん(泣)

今月中に最後まで辿り着きたい!(切実)


                         2004.04.17  キメラ.A / 美影 レン


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