Rainy days 3 『チェリームーン 2』


 「ゾロ」

 「おい・・・なぁ・・・起きろって」

 「ゾロ・・・」

 俺の好きな甘い声が俺を呼ぶ。
 浅い眠りの淵にいた俺は、その声をもう少しだけ聞いていたくて、狸寝入りを決め込んだ。  右肩に置かれた手は、俺を起こそうと揺らされるが

 (あー・・・・・・あんま触るな。欲情すっだろ・・・)

 なんて、見当違いのことを思っていた。

 「しょうねぇ奴だな・・・アレで起こすか」
 すると、ため息と共に殺気が放たれ、ヒュッという音が俺の腹目掛けて降ってくる。

 (!!!・・・ヤ、ヤベェ!流石に朝っぱらからアレを2発も食らったらキツイだろ)

 まだ腹に残る鈍い痛みに眉をしかめ、振り下ろされたソレを腹に受ける直前で受け止めた。
 「やっと起きたかダーリン?手間掛けさせやがって」
 運転席に座るサンジは、不自然に身体を捻り右足を俺の手に掴まれていた。
 「こんな狭い車内で蹴りはないだろ・・・蹴りは。お前が暴れたらどっか壊すだろうが。新車なんだろ?良いのかよ?」
 「そんなんお前に弁償させるに決まってんだろ、アホめ。さっさと降りろよ、もう着いたぞ」
 促されて車外に出ると、コバルトブルーの空よりも濃い青色をしたインプレッサ2.0 WRX STi は 富士急のハイランドの駐車場で富士山をバックに車体を輝かせていた。
 その脇に立ちサンジはタバコをふかしている。
 (やっぱりあいつは青が似合うな・・・アレでもうちっと足癖が悪くなけりゃ良いんだが・・・・・・)
 鈍い痛みを思い出し腹をさすりなながら、俺は朝の出来事を思い出していた。







 ―――― 2時間半前 ――――



 ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ



 それは、目覚まし時計のアラームと共にやってきた。

 パタパタパタ・・・

 「ロロノア・ゾロ!覚悟!!!」

 ヒュッ
 ドカッ!!!

 「ぐあっ!!!」

 激痛が腹に走る。
 身体を丸め目を開けると、ベッドサイドには仁王立ちしたサンジがいた・・・
 「『覚悟』って・・・闇討ちか。お前はいつの時代の人間だ?普通最初に声を掛けるだろうが・・・うっ」
 身体を起こそうとすると腹が痛む。
 いくら普段から鍛えてるとは言え、無防備な状態の蹴りのショックはでかかった。

 「起きてないお前が悪い。6時に迎えに来るって言ったじゃねぇか」
 さも心外だと言わんばかりにサンジがため息をつく。
 「大体何で目覚まし時計が6時にセットしてあんだ?アホめ。6時に迎えに来るっつったのに、 その時間に目覚ましセットする奴がいるか。てめぇは本当にノータリンだな!」

 その言葉に、俺はハタとある事に気づいた。
 「お前・・・何で部屋ん中いるんだ?!本当にドア蹴り破ったんじゃ・・・」
 「そうしても良かったけど・・・」
 ニヤリとサンジは笑って右手をかざして見せた。
 (カギだ・・・カギ?・・・まさか!)
 「お前の単純な思考回路はお見通しだ。郵便受けにスペアキーが入ってたぞ。 あそこじゃ意味ねぇから隠し場所は替えておけ。」

 俺はガックリと肩を落とした。

 「じゃ、俺は下で待ってるから、準備してさっさと降りて来いよな」
 笑い声と共にサンジは部屋を出て行った。


 明日から3月だというのに早朝の空気はまだ冷たく、外に出ると口から漏れる息は白く染まっていた。
 サンジの姿が見えないのでキョロキョロしていると、アパートの前に止まっていた見慣れない青い インプレッサのウィンドウが下りた。

 「早く乗れよ。さっさと出発しねぇと高速混んでくるぞ」
 助手席のドアから滑り込むと、運転席のサンジはタバコを銜えたまま俺の方を振り返った。
 (っ・・・可愛いじゃねぇか!)
 さっきは寝起きで良く見ていなかったが、ブルージーンズにグレーのタートルネックのセーター。
 その上にフェイクファーの白いコートを羽織っている。
 そして、顔にはオレンジ色のサングラスをしていた。
 普段大学に着てくる黒系ではなく、もっとカジュアルで中性的な感じだ。
 とにかく、めちゃめちゃ可愛い。
 思わずニヤケそうな口元を手で隠し、フイとわざとそっけなく視線を逸らす。

 そう言えば、俺は18になってすぐバイクの免許取る時に一緒に車の免許も取ったが、 こいつは原付しか持ってなかったはずじゃ・・・
 「お前免許なんて持ってたか?」
 俺はふいに沸いた疑問を口にした。
 「ふふふ・・・実は先週取ったばっかだ。大学が春休みに入ってから毎日教習所通ってよぉ、 もちろんレストランで仕事してる合間にだぜ?」
 「実質2週間くらいだ、すげぇだろ!
 この車も昨日納車したばっかだ。汚しやがったら蹴り飛ばすからな!覚えとけ。」
 楽しそうにサンジは語る。
 「免許取りたてで長距離は辛いんじゃないか?俺が運転しようか?」
 「お前にまかせたらいつ着くかわかんえぇだろ・・・まぁ、帰りはお願いするぜ。  それに、免許は取ったばっかだが運転は慣れてねぇわけじゃねぇから」

 (・・・・・・無免で運転してたのかよ・・・)

 ニヤリと笑うサンジに少し呆れたが、富士急ハイランドへ向かうべく、俺たちは車を走らせたのだ。









 時計の針が正午を過ぎる頃には絶叫マシーン系は制覇し、サンジのテンションはこれでもかってくらいあがっていた。
 いつもより大はしゃぎで、初めて遊園地に来た子供のように騒いでいる。
 「くぅ〜〜〜〜〜〜やっぱおもしろいぜ!ドドンパ!流石世界最速!発射直前の緊張感もたまんねぇけど、 身体にかかる重力と風がすっげぇくるよ!」
 「なんたって、スタート1.8秒後には時速172kmだもんな!」
 「また乗りてぇ!あとFUJIYAMAも面白かったよな〜!所要時間約3分半だっけ?」
 「そんだけ長いとドキドキする時間が長くてイイよな!」
 興奮と寒さのせいで頬を赤くしたサンジ。
 その可愛い姿に自然と俺の頬は緩んでいく。

 次は何に乗ろうかと2人でパンフレットを見ていると、顔を上げたサンジが突然俺の肩をバシバシと叩きだした。
 「おい、ゾロ!あれ、見ろよ!!!」
 サンジが指差す方向には・・・たこ焼き屋があった。
 腹が減ったのか?とも思ったが、よくよく見てみると店の横のぼりに目が留まる。
 「マリモ焼きだってよ!マリモ焼き!!!わはははは!面白れぇ!てめぇの仲間が焼かれてるぞ・・・くっくっくっ」
 サンジは腹を抱えて笑っている。
 「よし。お前買ってこい。『マリモ焼き1つ下さい』って行ってこいよぉ〜〜〜! 店員さん、マリモの共食いだって思うぞ・・・クッ。笑いすぎて腹いてぇ」



 サンジに言われ、渋々とマリモ焼きを買ってきた。

 戻った俺の手元を見て・・・サンジは絶叫を上げる。

 「こんなの・・・マリモじゃねぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 それは、生地にほうれん草を混ぜて作ったタコ焼きのようで、普通のに比べればちょっと緑かな?という程度で、 サンジの期待通りの物ではなかったらしい。

 「違うだろ。マリモって言えば、もっと緑で、もっとフワフワしてて、こんな感じだろぉ!」
 グイグイと俺の髪を引張る。
 「イテテテッ・・・あんまひっぱんな、ハゲたらてめぇのせいだぞ」
 「煩い黙れ、デコッパチ!てめぇのハゲるのは運命だ!そのデコ見れば一目瞭然だろ!人のせいにすんな。」
 「っ・・・ハゲるかどうかなんて、まだわかねぇじゃねぇか」
 「そんなことよりマリモだよ・・・マリモの共食い激写のチャンスだっったのに!」
 (んな写真撮る気だったか・・・)
 脱力しながらサンジを見ると、ブツブツ文句を言いながらも、こいつはマリモ焼きを口に運んでいた。



 昼食を取り、俺たちは敷地の奥を目指す。
 そこには富士急ハイランド名物ホラーハウス『超・戦慄迷宮』がある。
 大人気のアトラクションらしく、整理券を貰う為に朝一で並んだが、13時からの入場の券を渡されたのだ。

 『超・戦慄迷宮』はウォークスルー型ホラーハウスで、世界最長に認定されているらしい。
 まぁ長いだけなら大した事は無いが・・・言った奴の話によると・・・洒落にならないくらい怖いそうだ。
 所要時間は、普通に出れば40分くらいだが・・・迷えばもっと長くなる。
 50以上の部屋と200近いドア、階段も270以上あり・・・上ったり降りたり、 曲がったりとしているうちに現在地が把握できなくなり・・・迷う。
 で、自分の足で歩く為、怖がって立ち止まれば増々出るまでの時間がかかるわけだ。
 以前はホテルがコンセプトだったが、夏に改装して今度は病院になった。
 ストーリーもあってなんとも凝った作りになっている。

 「・・・で、今日は富士急の日だからイベントがあるって言っただろ?2月29日にちなんで、 お化けの数がなんと229人!太っ腹だ!」
 「や・・・太っ腹だとかそう言う問題じゃねぇと思うが・・・・」
 「はっは〜ん。さては怖いんだな?マリモマン。迷子になって所要時間の最長記録作るなよ?」
 さっきからサンジは良くしゃべる。
 本当は・・・こいつが幽霊の類が苦手なのを知っている。
 テレビでそういう番組が始まると、見たいドラマがあったとか何とか言って、さりげなくチャンネルを変えるのだ。
 入場ゲートが近づくと、サンジはいつの間にか少し後ろに下がり、俺の服の裾をキュッとつかんでいた。

 (本当に・・・大丈夫なのか・・・・・・?)

 一抹の不安を抱えたまま、俺たちは病棟の中に足を踏み入れたのだ。





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ぐわっ!
1話目から1ヶ月も経ってるよ・・・スミマセンm(_ _)m
続きはもうちっとサクサク書きますので(泣)

えっと、サン誕部屋Topにも書きましたが、サン誕期間を延長します(汗)
前半は好調だったのに、後半は駄目駄目だったので・・・
気が済んでいないので延長です!

とにかくチェリームーンを最後まで書かないと(爆)
最後までお付き合い頂ければ嬉しいですm(_ _)m


                         2004.04.04  キメラ.A / 美影 レン


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