Rainy days 3 『チェリームーン 1』


 ブーン・・・ブーン・・・ブーン・・・・・・



 枕元、夜には充電器に挿しっぱなしにしてある携帯電話が震えている。
 一度寝たら朝まで象に踏まれても起きないとまで言われたこの俺が、 なぜだか携帯のバイブ音で目が覚めた。
 眠い目をこすりながら、なんとか布団から腕を伸ばそうと努力するが、 一度眠りに落ちた身体は中々言うことを聞いてくれない。


 ブーン・・・ブーン・・・


 その間にも携帯は鳴り止む気配は全く無く、いい加減出ないことには 後で痛い目を見るのは自分なのだ。

 今夜はバイトもなく、特にすることもなかったので22時頃には就寝したはず。
 充電器の横に置いてある、投げても踏んでも壊れそうにない黒の四角いデジタル時計を 見やると”2/29 AM 0:17”となっていた。

 こんな時刻に俺に用事がある奴なんて、一人しか思い浮かばない。
 まあ、考えるまでもなく、着信で光る携帯の青色のライトで一目瞭然なのだが。
 『細かい設定なんて、女じゃあるめぇしやってられっか』と言った俺の携帯の設定を いつの間にか変更したのは奴だ。

 たった一人、奴から掛かってきた時だけライトと曲が変わる。
 青色と・・・俺は見た事がない何とかって言うドラマの主題歌だ。


 「あ”・・・」

 ようやく携帯を手にした俺は、乾いた喉からなんとか掠れた声を発した。

 『あ”・・・じゃねぇだろ!何分鳴らしてると思ってんだこのグズ!3コール以内に 出やがれこの腐れマリモ!!!』

 大音量の罵声思わず携帯を落としかける。
 そんな、普通の神経の人間なら不快に思うであろう怒鳴り声すら 愛しいと思うなんて、まったく俺は重症だ。
 でもそんな素振りはつゆ程も見せず、俺は低い声で不機嫌に返答する。

 「何時だと思ってんだ・・・サンジ。健全な人間は普通夢の中の住人だ。
3コールで出れるか、アホ眉毛。」

 『カッチーン!何だとこのクソ腹巻め!健全な青少年はこんな時間には 寝てねぇんだよ!夢の中にいんのはジジイくれぇだ。本当にてめぇはジジくせぇ奴だな。 どうせ今も腹巻して寝てんだろ!』

 言われてゾロは、うっ・・・と言葉につまる。
 確かにゾロの今の格好は、黒のスウェットのズボンに白のTシャツ・・・そして腹巻をしていた。
 しかも髪の色とおそろいの緑の腹巻だ。

 「それは・・・俺の自由だろ。ほっとけ。で、こんな時間に起こしやがって、 言いたいことはそれだけか?他にないならもう切るぞ」

 わざと突き放した言い方をしてみる。
 本当は、少しでも長くサンジの声を聞いていたいのは自分なのに。
 でもサンジのことだ、こう言えばきっと・・・

 『何言ってんだ!てめぇの腹巻確認なんかの為に、俺様がわざわざ野郎に電話なんかすると思ってんのか?!』

 思った通り、吠える子犬のごとくけたたましい勢いで反論が返ってきた。
 想像通りの反応に、自然と口元に笑みが浮かぶ。

 サンジの声を聞くのは久しぶりだ。
 1月末に後期試験が終了し、2月・3月は大学は春休みになっている。
 丁度バレンタインの頃に、うちの大学では入試があった為、バイトで試験管をした。
 親には帰省しない理由をそれと告げたけれど、本当の理由は別にある。
 だって、実家に帰ってしまったら、実は周囲に良く気を使うサンジは、こんな時間に、 こんな風に電話をよこしたりはしないだろ?
 もちろん会うこともできなくなるわけで・・・
 まぁ、大学が休みでも実家のレストランで忙しく働いていたらしく、  この2週間は飲みに行くどころか話しすらできなかったのだが。
 自分から電話を掛けるということをしない俺はサンジから掛かってくるのを、ただ待つだけだ。

 中々、女々しいだろ?

 でもサンジに対してはどうしても受身になってしまう。
 だってしょうがねぇよ・・・惚れた弱みって言うだろ?

 女好きの男嫌い。

 そんなサンジと一応は友情らしきものを育んでいる・・・それだけでも奇跡に近いのに。



 相変わらず、電話口でキャンキャンサンジは吠えている。

 きっと携帯握り締めて額に三文筋浮かべてんだろうな・・・とか。
 壁に蹴りの一発でも入ったかもしんねぇ・・・とか。
 そんな姿を想像するだけで、俺は心臓の辺りがホワンと暖かい気持ちになっていく。

 『・・・おい!聞いてるのか?電話中に寝てんじゃねぇぞ!コラァ!』

 「あぁ・・・聞いてるって。で、何だって?」

 『だから!2月29日は富士急の日なんだってよ!富士急ハイランド!4年に1度のお祭り騒ぎだ!入場料は無料だし、 何かイベントもあるんだってよ。ってことで、行くぞ!』

 「・・・これからか?」

 『アホ!こんな時間に行ってどうする。てめぇ脳みそも筋肉だな。』

 『朝一で出発だ。6時に迎えに行くからアパートの前で待っとけ。 ちゃんと時間にいねぇとドア蹴り破って起こしに行くからな!わかったか!!!』



 プツ・・・

 ツーツーツー


 切れた。



 行くとも、行かないとも言っていないのに、サンジの中では行くことが決定しているらしい・・・
 しょうがない。
 あいつに振り回されるのはいつものことだ。

 携帯を充電器に戻し、ついでに、最近使われていなかった目覚まし時計の時刻をセットし直す。
 6時・・・俺が時間に起きていなければ、きっとサンジはさっきの言葉を実践するだろう。
 それができてしまうだろう脚力が恐ろしい。



 (朝・・・6時か・・・)


 (自信ねぇけど・・・起きるしかねぇだろ・・・)



 サンジの声を耳の奥に残したまま、俺はまた深い眠りに入っていった・・・・・・・・・





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続きます(笑)
ってか、1話目で富士急までたどり着けませんでした(笑)
『AAA』推奨作品でございます!
アホ甘目指しましたが・・・なんだかぬる甘です(汗)
これは一応、サイトで連載している『Rainy days』大学生ゾロサンシリーズの番外編です。
こんな感じでゾロがサンジに振り回されながら進んでいきますので、
宜しければ最後までお付き合い下さいm(_ _)m
そして、もちろんDLFですのでご自由にお持ち帰り下さいv


それでは、また!
サン誕期間終了までまだまだ書きます!
またいらして下さい。
そしてここまでお読み下さって、ありがとうございました。


あまりの幸せな日々に、全て夢なんじゃないかと思う今日この頃・・・
ゾロとサンジへの愛は計り知れませんv


                         2004.03.04  キメラ.A / 美影 レン


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